第1節 益税が存在するか否かの検証

第3章 事業者免税点制度による益税

第2章までは、事業者免税点制度の仕組みや成り立ちについて確認し、関連する判例を見てきた。特に、第2章において確認した判例からは、事業者免税点制度が抱える複数の問題が明らかになったように思われる。この章では、第2章において確認した問題に加えて、もう一歩踏み込んだ問題について探っていくこととする。

第1節 益税が存在するか否かの検証

1.先に見た判例の問題は、主に事業者に関する事業者免税点制度の問題であった。ここからは、消費者や国にとって一般的な大きな問題として、「益税」問題を取り上げてみたい。  

まずは、市民の声を多く聞いたという、政府税制調査会の会長を務めた石元会長[73]によると、「税についての対話集会[74]」において、「参加者の不満はもっぱらこの益税問題に集中」していたという。具体的には、「一見して年間売上高が3000万円に満たないような零細小売店からも、買物のたびにしばしば消費税を請求される。このことから家庭の主婦を中心に、その事業者が消費税を国庫に納めないのは益税ではないかとの批判が高まっていた[75]。」という。そこで、雑誌や新聞から一般的な益税問題のイメージを見てみると、ある経済誌には「消費税の最大の弱点は、益税を発生させることである。現在[76]日本の消費税の免税点は、年間売上高3000万円であるため、大半の自営業者は、お客から消費税としてもらった金を税務署に納めず、自分の懐に入れている。これが益税である。益税は、クロヨン[77]で潤っているまさにその層に、大きな利益をもたらしている[78]」といった論説も見受けられた。また、直近のある新聞では、「消費税10%の先を考える」と題して、「店で払ったはずの消費税が政府に届かず、不透明な形で店の手元に残ってしまうことがある。消費税の納付を免除される小さな事業者なのに、客からは税率分だけ多くもらうから発生する。いわゆる『益税』は年数千億円に達するのに放置され、消費税への信頼をじわり損ねてきた[79]」と報じている。これら2つの記事から見る益税のイメージは、会社員がいだく自営業者や農業者に対する不公平感を表していると思われる。

 ところが、湖東教授はこのような一般的な益税論に対して「消費税には巷間いわれているような『益税』が存在するのだろうか。結論を先にいえば法理論的には『益税』が発生する余地はないが、経済的・実体的には僅かながら『益税』が発生する場合があり得る」として、法理論的には「消費税の本質的性質が間接税であるなら事業者免税点が存在すること自体おかしい」[80]と指摘し、例えばゴルフ場利用税のような明確な間接税には益税が存在しないであろう、と説き、消費税が間接税的性質だけではなく、直接税的性質を持っていると分析されている。

 また、経済的・実体的には、「消費税を価格に転嫁するか否かは法的に保証されているわけではないから、中小事業者の場合必ずしも仕入れなどに含まれている消費税分を価格に転嫁しているとは限らない」とし、業種によってはほぼ50%の小規模事業者が完全に転嫁することができず自ら負担している例を挙げ「これらの小規模事業者の場合、『益税』は全く発生しないばかりか仕入れなどに含まれる消費税分を被ってしまう」損税が発生する可能性すらあることを指摘する。

 その上で、「一般的に『益税』が発生する免税事業者がいるとすれば、定価販売が定着している業種に限られる」として、例として再販制のもとにある書籍やレコード、個人タクシー、新聞販売店などに益税が発生する可能性がある、としている。

また、「売上高にかかる消費税から仕入高等(必要経費などを含む)にかかる消費税分を控除した金額が『益税』となる」に過ぎず、免税事業者であっても「店舗建築など多額の支出(課税仕入れ)を行った場合には、あらかじめ課税事業者を選択[81]しない限り逆に「損税」が発生してしまう」[82]という。

上記の通り、湖東教授の鋭利な分析により、「免税事業者=益税で儲かる」という安易な益税論は慎む必要がある[83]こと確認した。その上で、益税が発生するメカニズムについて、次項でもう少し詳しく見ていくことにする。


[73] 平成12年から平成18年まで務められた。

[74] 平成14年から平成15年にかけて政府税制調査会が全国16ヵ所で行ったもの。

[75] 石弘光『消費税の政治経済学』 日本経済新聞社(2009年11月)230頁

[76] 論文発表当時は、2000年。

[77] 「源泉徴収の会社員は所得の9割を税務当局に把握されるが、匿名性の高い現金取引が多い自営業者らは6割、農林水産業者は4割にとどまる」という意味の俗語 日本経済新聞(電子版)平成27年8月1日

[78] 八田達夫「財政再建のための税制改革」エコノミックス3 東洋経済新報社(2000年10月)51頁

[79] 日本経済新聞朝刊(2019年10月10日)

[80] 湖東京至「消費税法の法的再検討」 前掲(注)56  1頁~16頁

[81] 法第9条第4項によれば、課税事業者の選択の適用を受けようとする課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中に課税事業者選択届出書を提出すれば、課税事業者となることができる。したがって、「あらかじめ」課税事業者を選択しなければならないのは、2期目以降のことである。

[82] この設備投資による損税の問題については、後ほど解決策を検討する予定である。

[83] 損税について、中小企業の苦しみの実態を取材した文献として、斎藤貴男『消費税のカラクリ』講談社現代新書(2010年7月)が挙げられる。

第2節 益税発生のメカニズム

下記の図1[84]は、帳簿方式のもとですべてが課税事業者の場合と卸売業者(B)が免税事業者の場合の消費税の数値例を示したものである。

鈴木准教授によると「両者が扱っている商品が同じだと仮定すると、免税事業者であるBは、課税事業者と同じ価格設定をおこなう可能性が高い。そこで、この数値例では免税事業者であるBも、課税事業者と同様に、売上価格を10%だけ値上げするものと想定」すると、「免税事業者であるBの粗利益は、2200円となり、200円だけ増加することになる。この200円がいわゆる『益税』となる」[85]という。

 また、もう少し詳細な分析として森信教授は、「『益税』を定義すると、『免税事業者が、消費税分として、仕入金額にかかっている消費税以上の価格の引上げを消費者に求める場合の、その差額』ということになる。わかりやすく言えば『過剰転嫁』ということである」[86]と指摘している。つまり、図1のケースで言えば、一般的なイメージで言うと、Bの益税額は1000円であるが、仕入のコストに対応する消費税として800円があるので、その分を差し引いた正確な益税額は200円ということになる。逆に「過剰転嫁」していない適切な転嫁をした状態は、Bの売上で言えば、売上価格の10000円に仕入税額800円を加えた10800円ということになる。

 このケースでは、Bが課税事業者と同様の価格設定をすることが前提としてあったが、ここにBが価格競争力のない事業者であったと仮定すると、価格転嫁の問題が発生するため、純粋な益税が、すべての免税事業者に発生するわけではないが、本論では、この免税事業者が課税事業者と同じ値決めをしたケースをシンプルな益税のモデルケースとして採用し、その解決策を探っていくことにする。

 また、森信教授は「益税は免税点制度によってのみ生じているわけではない。後述する簡易課税制度や免税事業者からの仕入れをも税額控除の対象とするような方式によっても生じており、筆者はむしろそちらの方が問題だと考える」[87]とも言及されている。図1で言えば、Bは200円の益税が発生するだけ[88]だが、その裏で小売業者Cが免税事業者から仕入れた11000円のうちの税額1000円の仕入税額控除を受けられることこそ問題であると指摘していることになる。この隠れた仕入側の益税の問題については、第7章で分析していくことにする。


[84] 出所)鈴木善充「消費税における益税の推計」 会計検査研究 No.43(2011年3月)の図1(46頁)をもとに、筆者が税率等を改めて(もとの図では5%の税率を10%に置き換え)作成した

[85] 鈴木善充 前掲(注)84 46頁

[86] 森信茂樹「消費税の課題を考える」 国際税制研究No.17 (2006年1月)39頁

[87] 森信茂樹 前掲(注)86 39頁

[88] 更に言えば、この200円には法人税又は所得税が課税される可能性があるため、その全額が益税となるわけではないことも付け加えたい。

第3項 徴税コストについて

1.徴税コストとは、「租税の執行に伴い発生する費用」であり、「課税庁側に発生する税務執行費用と、納税者等が負担する納税協力費用に分けることができる[133]」という。前項で納税協力費については扱ったため、本項では、税務執行費用について取り上げることにする。

そして、税務執行費用とは、「徴税事務執行にかかる一切の費用をいい、業務の執行過程で支出する税務職員の人件費、交通費、物件費等の他、税制を周知徹底させるための費用などが含まれる[134]」という。

また、西山教授によると、徴税コストについて、国内レベルでの調査研究は、十分に行われていないという。その理由は、継続的かつ信頼できる公式データがほとんど存在しない[135]ことによる。わが国では、国税庁の平成15年版の「日本における税務行政」における徴税コストの記載を最後に公表されたデータが入手できない状況になっている。

 そのような状況下ではあるが、先の大野教授と芥川税理士による研究では、平成元年から平成13年までの公表データを元に、税目当たりの税務執行費用について算出している。

この表から、「基幹税制たる主要3税[136]のうち、消費税は税務執行費用が他の諸税(筆者注:間接諸税)[137]と同様に低い[138]」ことが見て取れる。

データは平成13年までであり、その後の平成16年には、免税点は1000万円に切り下げたことにより消費税の申告件数が急増したことや、事業者免税点制度や簡易課税制度において数度の改正が行われたことによる周知費用等により、税務執行費用が増加した可能性が高いものの、現行制度の下では、「源泉所得税に匹敵する『メインテナンス費用のかからない租税』[139]」であることに変わりはないものと思われる。

2.免税点と徴税コストの問題について、増井教授はOECD[140]の2014年版報告書を紹介し、閾値[141]の水準は「各国の間でコンセンサスはない。多くの場合、閾値のレベルは、納税協力コスト・税務行政コストを最小化することと、税収を危うくし競争にひずみを与えることと間での、トレード・オフの結果である[142]」としている。そして、閾値の設定について、「VAT[143]が登場したころの専門家の通常の助言は、VAT事業者登録の基準となる数値(通常それは年間売上高として定義される)をできる限り低く設定すべきである、というものであった。これによって潜在的に課税できる取引をすべてVATの対象にできると考えられた。この助言は、執行コストと納税協力コストがゼロであることを黙示的に前提としており、そこからは理想の閾値はゼロであることになる」という考えであったが、「時間の経過とともにこの通念は変化した」という。これは「多くの国で、少数の大規模事業者だけでVAT税収の8割から9割を納付している。これに対し、小規模事業者を納税義務者としても、執行コストと納税協力コストが大きくなるだけで、追加的に得られる税収は少ない。(中略)かなり高水準の閾値を設けるべきであるということが新たな通念になった。小魚を追うのではなく、大きな鯨を追うべきである[144]」というのである。

3.増井教授が紹介する海外専門家の「小魚ではなく大きな鯨を追え」という視点は、斬新であり、何かとコストパフォーマンスを重視する現代人の経済感覚的にも受け入れやすいものではある。ただし、消費税率が10%と2桁の税率となり、今後も更なる税率アップが予想され、今まで以上に国の基幹税としての役割が期待される消費税について、全事業者のうち約6割が免税事業者[145]とされる状況は、国民感情を思うと課税の公平性の観点から問題があると思われる。

 また、徴税コストについても、コンピュータ化・電子申告化・IT化が浸透し、かつそれらの技術が加速度的に進化している現在において、従来同様の「申告件数増=徴税コスト増」と考える人海戦術的な発想[146]でコストを計算することは、時代にそぐわない、と筆者は思料する。徴税コストの問題にも、新しい時代の新しい方法を導入すべきであり、後の章で外国の事例を元に、その方法を探ってみることとする。

4.本節では、事業者免税点制度における益税問題について、消費者・事業者・徴税者という3者の視点から検討を行ってきた。消費税法の導入から30年の時を経て、税率の変更や細かな改正があり、国民の税への理解や浸透があり、またパソコンをはじめとする加速度的な技術革新がある中で、導入当初の趣旨が見直されぬままに放置されている感が深い、現在の事業者免税点制度について、見直しの必要性を改めて感じさせる内容であった。


[133] 大野裕之・芥川浩一「消費税の簡素性:~税務執行費用の推計と他税との比較~」 東洋大学経済研究会29巻1号(2003年12月)2~3頁 

[134] 大野裕之・芥川浩一 前掲(注)133 4頁

[135] 西山由美「消費税のコスト-徴税コストとコンプライアンス・コスト」 税理VOL.57No.11(2014年9月)88頁

[136] 法人税・所得税・消費税の3税をいう。

[137] 間接諸税とは、たばこ税、たばこ特別税、揮発油税、地方道路税、航空機燃料税、石油ガス税、石油石炭税、印紙税、自動車重量税及び電源開発促進税をいう。(国税庁HPより)

[138] 大野裕之・芥川浩一 前掲(注)133 8頁(表は9頁)

[139] 西山由美 前掲(注)135 94頁

[140] Organization for Economic Co-operation Development の略で、日本語で経済協力開発機構という。国際経済全般について協議することを目的とした国際機関で、別名は「世界最大のシンクタンク」。欧米諸国・米国・日本など34か国で構成されている。

(外務省HPより)

[141] Thresholdの訳語。 日本の小規模事業者の免税点に相当するもの。

[142] 増井良啓「終章 日本の消費税はどこへいくか-国際比較からの展望」 日税研論集第70号 日本税務研究センター(2017年1月)531頁

[143] Value Added Tax の略。付加価値税と訳される。日本の消費税に相当するもの。20世紀生まれの新しい税制。特に欧州各国は、日本に先行して導入しているため、参考になる点が多い。

[144] 増井良啓 前掲(注)142 541~542頁

[145] 第198回国会衆議院財務金融委員会議事録第2号(2019年2月19日)20頁

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detailPDF?minId=119804376X00220190219&page=1&spkNum=0&current=1 最終アクセス2020年1月13日

麻生財務大臣の答弁「平成29年度の課税事業者の数は317万者であり、免税事業者数は(財務省としては把握していないものの)総務省の平成27年国勢調査等を元に試算すると488万者と推計される」から、約60.6%が免税事業者である実態が明らかになった。また、同答弁で、業種別の免税事業者の割合は、サービス業関係が35%、農林水産関係が18%、建設業関係が13%、小売業関係が10%と試算されていることも明らかになった。

[146] 八田達夫『消費税はやはりいらない』 東洋経済新報社(1994年12月)では、「フランスでは益税の出ない付加価値税を採用するために、1960年から88年までに税務職員を6000人から30万人に実に50倍に増やした。それによって免税点を年売上高180万円に抑えて益税の発生を防いでいる」という例が紹介されている。

第4節 益税問題に対する評価

益税については、様々な角度からの考察が必要になる。まず、消費者の観点からは「益税は非常に不合理なものであり、その原因となっている事業者免税点制度や簡易課税制度といった中小企業特例措置は即刻廃止すべきであろう[101]」といった強い指摘もあり、他方では「中小企業特例措置の適用範囲内の事業者、つまり中小零細事業者にとっては、納税事務負担の軽減のためには必要なもの」であり、また「徴税者側からすれば、特例措置による大幅な徴税コストの削減は重要な要素」というように、益税問題を考えるには「消費者・事業者・徴税者という3者の視点から包括的に検討することが不可欠[102]」であると思われる。


[101] 平野正樹 前掲(注)96 174頁

[102] 平野正樹 前掲(注)96 174頁

第1項 消費者にとっての益税問題

1.一般的なイメージとして、益税の性格については、「消費者の支払った税金が事業者の懐に残る悪しき制度[103]」と捉えられる傾向にあるが、静岡大学研究チームは、免税点制度と簡易課税制度を「世界でもまれな『消費者による業者への補助金システム(税の名を用いた私人から私人への補助)』として作用している[104]」と捉え、矢野教授は、「小・零細事業者の手元にいくばくかの益税がとどまるにしても、それは小・零細事業者の保護・育成の観点をとるならば、小・零細事業者への特例措置はある程度許容できるかもしれない[105]」としている。

 これらの考え方に通底するのは「一般的な益税問題の考え方、つまり公平性を阻害する制度としてではなく、政策的配慮として益税問題を考えている[106]」点である。小・零細事業の保護・育成が国家経済において、重要であることは論を俟たないものの、その方法として、私人(消費者)から私人(小規模事業者)への補助金システムが有効、と考えることはやや筋を違えているのではないだろうか。

なぜならば、「通常の『(隠れた)補助金』は課税権者と納税義務者との関係のみにおいて生じる問題であること、つまり、国等の課税権者は自己が本来取得するはずの税金を免除し、実質的負担者である当該納税義務者を補助するので、ここには第三者は登場しない[107]」のであって、私人の消費者という第三者がそこに介在することは、問題であると考えられるためである。

2.政策的配慮という視点で考えた場合、第2章第5節で取り上げたホテル事件の原告の声を借りれば、5億円の課税売上高がある免税事業者は5000万円が収益となり、さらに言えば、仮に50憶円の課税売上高がある免税事業者は5億円の収益が得られる仕組みであり、皮肉なことに、より経済的に恵まれている事業者を優遇する措置になっているのが現状である。

また、免税事業者を選択した者にとっては、「販売価格といっても、そこには元請け(大企業)からの『指し値』だけが存在し、仕入れに係る消費税相当額を上乗せする(転嫁する)余地はない」ため、「その価格は元請けである、いわゆる大企業に支配される」ことになり、免税事業者が仕入れに係る消費税相当額を自らが負担しなければならない「損税」の状況が発生してしまう。また、逆に仕入側の価格支配力の強い大企業こそが消費税相当額を価格に過剰に転嫁するため、「益税は、大企業にこそ生じている可能性が高い[108]」という指摘[109]もあり、ここでも、小・零細事業の育成・保護といった政策的配慮が、逆効果となってしまっている可能性がある。

そのため、政策的配慮という視点に立つのであれば、私人から私人へという曖昧な形ではなく、よりはっきりとした形(例えば、消費税制度外での、国・地方等からの補助金といった形等)で、消費者に納得のいく仕組みづくりが必要ではないかと、筆者は思考する。

3.また、政策的配慮の一環ともいえる、「事業者の納税事務負担の軽減は必要なこと」であり、「理解できないでもない」が「消費者の支払った消費税が、そのまま国庫に納まらないで、受け取った事業者の手元に『益税』として残るような課税の仕組み、換言すれば事業者は現実に国庫に納める以上の消費税を消費者に転嫁(過剰転嫁)し得るような課税の仕組みが、合理的であると言うことにはならないだろう[110]」として、吉良教授は、不当な転嫁からの消費者の保護を検討し、消費者の立場を充分に考慮した法の見直しの必要性を説いている。

また、西山教授は「消費者にとって購入先が免税事業者かどうか判然としない状況で、最終消費者の負担の平等が阻害されるのではないだろうか[111]」として、同じく消費者の保護を訴えている。 この問題に対して、野口教授は解決策として、「『課税業者証明』を税務署が発行し、これを店頭に表示させることが考えられる。この表示がない店舗は免税業者であることが一目瞭然だから、消費者は安い価格を要求できよう。免税業者であることがわかれば、客が集まって売り上げが伸びることを考えれば、免税業者が反対する必然性もない。免税という税制上の特典が与えられている以上、消費者はその恩恵にあずかる権利がある。この方式は事務的にも簡単だから、ぜひ導入すべきである[112]」と提案しており、筆者も、後のインボイス(適格請求書等保存方式)制導入時を目途に、この制度の導入を検討すべきと考えている。少なくとも、「物またはサービス購入の際のレシート中に、課税業者からの購入の証として、当該事業者の付加価値税番号(VAT Number)が記される[113]」ような形で、課税事業者であることが判明するといった仕組みは確保すべきである。益税問題について、消費者の視点は、本項で確認できたため、次項では事業者にとっての益税問題を取り上げてみたい。


[103] 平野正樹 前掲(注)96 173頁

[104] 静岡大学研究チーム 前掲(注)95 170頁

 ただし、本文中でこの補助金システムを積極的に評価するという論旨ではない点に注意が必要である。

[105] 矢野秀利「消費税と益税問題」 税経通信VOL.49No.7(1994年6月)77頁

[106] 平野正樹 前掲(注)96 173頁

[107] 三木義一「中小企業に対する特例措置と『益税』問題」 税経通信 VOL.49No.11(1994年8月)70頁

[108] 紙博文「消費税法に関する研究-益税を中心として-」 経営情報研究:摂南大学経営学部論集 第11巻第2号(2004年2月)64~68頁

[109] 製造業等の下請けの小規模事業者に限られ、消費者を顧客とする小売業等には該当しない。

[110] 吉良実「消費税の転嫁」 税法学第484号 税法研究所(1991年4月)7頁

[111] 西山由美「小規模事業者に対する消費課税」『公法学の法と政策 上巻』 有斐閣(2000年9月)716頁

[112] 野口悠紀雄『税制改革のビジョン』 日本経済新聞社(1994年10月)78~79頁

[113] 西山由美 前掲(注)111 717頁

第2項 事務負担の問題

1.第1章で見た通り、事業者免税点制度の趣旨は、「小規模な事業者の事務負担や税務執行コストヘの配慮から設けられている特例措置[114]」であった。ここでは、特に事業者にとっての事務負担とは何かについて、改めて検討を行うことにする。

 そもそも事務負担とは、鎌倉教授によると、「事務作業の負担と事務作業に係る費用の負担があると考えることができる。事務作業の負担は、消費税を集計して納付税額を計算する作業に関する手間のことである。この手間に割かれる人的役務が必要とされる。また、この人的役務にはそれに付随して給与の負担が発生する。つまり、事務作業には時間と費用がかかる[115]」としている。

2.法施行当時であれば、「全くの新税」としての消費税は、小規模事業者がそもそもの税制の理解から、集計・申告に至る過程において、事務作業にかなりの時間と費用が割かれていたであろうことは、想像に難くない。また、パソコンを使用した事務が一般化する前の時代(平成元年のパソコンの世帯普及率は11.6%[116])であることも見逃してはならない事実である。

しかし、現在の消費税の集計は、大半の企業ではパソコンが使用されていて、「比較的簡易に行える会計システムも廉価で出回っており、また、税理士[117]に申告はもとより、記帳代行を依頼しているケースも多い[118]」ことを思えば、導入当初の事務負担と現在の事務負担との差は、かなり大きいのではないだろうか。

3.この点で、平成15年度改正では、税制調査会答申において「法人については、既に法人税法に基づき申告・記帳の事務を行っていることから、免税事業者から除外すべきであろう[119]」として、法人は消費税に固有の事務負担は少ないであろうという見解を示していたと思われる。

 また、中小企業の消費税の事務負担等について、平成23年度に経済産業省が委託調査として実施された調査[120]によると、消費税で負担に感じる事務を尋ねたところ、「記帳・経理」と「特に感じない」が29.1%で最も多いという結果がでていることから、「近年の情報技術の進展や会計ソフトの普及、消費税制度に対する理解・習熟に伴い、それほど困難を伴わずに記帳や申告ができるようになってきた[121]」と山田教授は分析している。

山田教授は、さらに、平成15年度改正の税制調査会の指摘(法人は、免税点制度から除外すべき)にとどまらず、所得税においても、「平成23年度の所得税法の改正により、平成26年1月1日からは、青色申告・白色申告を問わず、すべての個人事業者に、所得税法に基づく記帳義務が課されることになった[122]」ことから、「消費税固有の事務負担に配慮する必要性は薄まっ」ており、「個人・法人を問わず、納税者の記帳能力や、日々の売上げ・仕入れの記帳にかかる事務負担は、所得税、法人税又は消費税と税目が異なっても、大きく異なるものではなく、また、事業を行う上で、消費税を考慮せずに価格戦略や経営判断を行うことは困難であろうと思料され、所得税・法人税の記帳と消費税の記帳は、密接不可分である[123]」ことを指摘している。

 この指摘は、実務家として日常的に記帳代行を行う筆者にとっても説得的である。何故ならば、現状のパソコンでの会計ソフトを使った一般的な会計処理の現場においては、取引の仕訳入力時に勘定科目を判断すると同時に、消費税区分(課税・非課税・免税・課税対象外等)を入力することで、消費税の会計処理はほぼ完結していることから、消費税固有の事務負担は、申告書作成時にわずかに発生する程度だからである。また、事業者にとっても、自ら会計ソフトを駆使して、入力作業を行うに者については、事務負担は、仕訳入力時の消費税区分の判断にとどまると思われる上、記帳代行を税理士に委託する事業者については、事務負担はほとんど生じていないのが、現状であろうと思われる。

4.事務負担における「時間」は、上記のように大幅に縮小されたと思われる。また、今後のAI技術の発展によって、更なる縮小化が確実に期待できる分野[124]でもある。

では、もう一方の事務負担における「費用」の面はどうであろうか。

 この費用は、伊藤教授によると、納税協力費といい「税務当局に納める税額以外に、納税者(徴収義務者)あるいは担税者が税務行政過程において負担する費用[125]」と定義される。また、この費用には、「申告書を作成するために費やす時間、税務申告書の作成を会計士に依頼したときに支払う報酬等[126]」が含まれるという。この点、わが国の消費税の導入当時から、納税協力費については低くなるように配慮がなされており、尾崎元国税庁長官によると、帳簿方式の採用、申告納付[127]、簡易課税制度、限界控除制度、仕入にかかる消費税額の適用要件等で、「ずいぶん工夫をしてきた[128]」という。同論文では、なぜか言及されていないが、事業者免税点制度こそ、その筆頭格であることは言うまでもない。

 具体的な費用の試算は、横山教授[129]によると、税理士に委託する場合を想定し「税理士報酬規程」(近畿税理士会)を基準として用いて擬制計算[130]を行ったところ、平成19年度において、税収100円あたりの納税協力コストは、2.982円であり、仮に消費税の納税額が年間100万円の事業者を想定した場合、29,820円となる。

平成14年度からは税理士会による料金規定が撤廃[131]され、会計事務所業界にも低価格化の波が押し寄せ、年々顧問料は低下傾向にある中で、横山教授の試算から10年以上の時を経て、消費税申告の追加コストが3万円弱というのは、実務家として業界に携わる筆者の肌感覚にも近い数字である。

5.課税売上高1000万円弱の事業者が、免税事業者となることで、どの程度の益税が発生するかは事業者の状況による[132]ものの、少なく見積もっても、本項でみた「時間」と「費用」のコストに見合うもの以上であることは、想像に難くない。

本項では、事業者についての事務負担について検討を行った。その結果、法導入当初の事務負担は、現在においてかなり軽減されていることを確認することができた。次項では、徴税コストについて、検討を行うことにする。


[114] 財務省HP 事業者免税点制度の概要

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d06.htm

最終アクセス2020年1月13日

[115] 鎌倉友一「消費税法に関する一考察-租税公平主義の視点から基準期間を検討する-」 名古屋商科大学論集第54巻第1号 (2009年7月)39頁

[116] 内閣府HP 消費動向調査より

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/0403fukyuritsu.xls

最終アクセス2020年1月13日 

[117] 税理士の関与割合は、平成29年度は法人で88.9%、個人で20.2% 財務省「平成29年事務年度国税庁実績評価書」(2018年10月)129頁より

https://www.mof.go.jp/about_mof/policy_evaluation/nta/fy2017/evaluation/201810ntahyoka-jissekizentai.pdf 最終アクセス2020年1月13日

[118] 西野道之助「事業者免税点制度の考察」 第45回年次大会研究報告書 東京税理士会日本税務会計学会(2009年11月)114頁

[119] 税制調査会「平成15年度における税制改正についての答申-あるべき税制の構築に向けて-」 租税研究第638号(2002年11月)125頁

結果的には、全ての法人に事業者免税点制度を不適用とする改正は見送られた。

[120] 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「消費税に係る実態調査」(2011年12月)14頁(調査対象者:日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会に加盟する中小企業者)

[121] 山田晃央 前掲(注)8 17頁

[122] 所得税法第232条第1項 なお、法人については昭和59年度改正で法人税法が改正され、白色申告法人についても、昭和60年1月1日以後に開始する事業年度から記帳義務が課された。

[123] 山田晃央 前掲(注)8 68~69頁

[124] すでに、紙の領収書をスキャナやスマートフォンアプリで読み込み、読み込まれた内容をデータ化して自動的に仕訳をして、会計ソフトに取り込むシステムも実用化されているところである。

[125] 伊藤忠通「付加価値税の納税協力費」 租税研究第465号 日本租税研究協会(1988年7月)46頁

[126] 伊藤忠通 前掲(注)125 46頁

 この費用は義務的な納税協力費であり、この他にも「自由裁量的な納税協力費があり、こちらは納税者が節税対策のために専門家に支払う報酬がこれに含まれる。本来の納税協力費には、この自由裁量的費用を含めるべきではなく、義務的費用だけに限定すべきであるという考え方もある」という。

[127] 課税期間を1年とし、その後2カ月以内に申告納付をすること。わが国の消費税の課税期間が1年と長いことから、ベネフィット(運用益)が発生する点が、問題視されることもある。

[128] 尾崎護「消費税をめぐる諸課題-特に消費税の転嫁とコンプライアンス・コストの問題について-」 租税研究第470号 日本租税研究協会(1988年12月)38~39頁

[129] 横山直子「消費税に関する納税協力費の特徴」 『徴税と納税制度の経済分析』 中央経済社(2016年2月)135~151頁

[130] 横山教授によると「現在、税理士報酬規程は廃止されているが、現在も各税理士事務所において参考として用いられている。これに加えて現役税理士のインタビューの実施などから納税協力費を算出した」という。

[131] 日本税理士連合会『新税理士法〔三訂版〕』 税務経理協会(2009年7月)20頁

[132] 計算上は、最高で90万円程度。麻生財務大臣の国会答弁によると、インボイス制度が導入された際に免税事業者が課税事業者に転換することで、財務省は1事業者あたり、15万4千円程度の増収を見込んでいるということから、平均して、15万円程度の益税が発生しているという状況が考えられる。

 第198回国会衆議院財務金融委員会議事録第3号(2019年2月26日)http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009519820190226003.htm#p_honbun 最終アクセス 2020年1月6日

第3節 益税額の推計

前項では、個別の事業者の取引について、益税が発生する仕組みをミクロの視点から詳しく分析した。そこで、本項では、マクロの視点から国家全体として、益税額がどのくらい発生しているかについて各専門家の分析を紹介していくこととする。

第2節でも確認した通り「『益税』というのは、価格転嫁の程度により発生するものであるだけに、『益税』の実態、つまりわが国全体としてどの程度の『益税』が発生しているかを計測することは、各事業者の転嫁の度合いを調べなければならず困難」[89]であると思われる。そのことを理解した上で、先行研究から国全体の益税額の総計を見てみることにする。まず、橋本教授・鈴木准教授によると「『益税』を推計する方法としては、大別すると2つの方法」があるとされ、「ひとつは、消費税収の決算額と産業連関表で求めた理論上の税収を比較し、その差額を益税とみなす方法であり、いまひとつの方法はSNA[90]ベースでの理論上の税収と消費税収の決算額との差額を益税とみなす方法」[91]があるという。ただし、経済分析手法の詳細[92]について、筆者が解説・分析等を行うことはとても不可能であることから、各専門家による具体的な分析結果を取り上げながら、論を進めることにする。

まず、橋本教授・鈴木准教授による産業関連表を用いて益税を推計した結果は表1[93]である。

 表で注目すべきは、2000年から2005年にかけての数字の落ち込みだが、この落差は、鈴木准教授によると「簡易課税適用上限が売上額2億円から5000万円に引き下げられ、免税点制度適用上限が売上額3000万円から1000万円となった」法改正の結果によるものである。また、2005年の益税額約5000億円のうち、「簡易課税による発生額が約1000億円であることを考えると、免税点制度による益税発生額は約4000億円と見込まれる。仮に消費税率を10%まで引き上げた場合には、約8000億円の益税が発生する可能性がある[94]」という。この推計からは、制度の緻密化による益税額の減少が実現していると考えられ、また、そのような分析結果をもたらした両氏の研究手法の確かさも、ある程度認められると受け止められよう。

他には、静岡大学税制研究チームは、1987年の試算[95]で益税の総額を年間約4800億円と試算している。ただし、この数字には、簡易課税制度・限界控除制度・事業者免税点制度などの中小企業特例措置のすべてが含まれた数字となる。

また、試算の時期が消費税法施行前であるため、純粋な思考実験と認められることから参考の記録と扱わざるを得ない。

次に、平野教授によると「2000年度に、消費税率5%の下での事業者免税点制度による益税は約2327億円発生」しており、また「現行制度のまま消費税率を10%としたときには4654億円、20%としたときには9308億円の益税が発生することになる[96]」としている。

 また、羽田教授は2005年の統計をもとに「個人および法人の免税事業者の平均売上高をそれぞれ300万円および500万円として益税額を求めると、個人および法人それぞれ728億6900万円、742億6600万円となり、総額1471憶3500万円」[97]と試算する。

各論者の試算は、その方法・年度・対象において、それぞれバラツキがあり、単純な比較が難しい。ただ一つ言えることは、各論者の試算に数千億円の差額が出ることもあるということは、この試算がいかに困難であるかを物語っている、ということである。また、事業者免税点制度を単体で扱った試算として年間で1000億円を下回るものは無く、いずれも税率5%時代の試算であることから、税率10%時代には、事業者免税点制度の益税の総額は、概算として、年間で数千億円に達している、と筆者は考える。

 一方で、国側からの数字として、2014年の参議院決算委員会での答弁において、愛知財務副大臣は「個々の事業者における転嫁の程度については統計等で把握することができないため、益税の額を定量的に計算することは困難」と前置きした上で、「事業者免税点制度及び簡易課税制度は中小事業者の事務負担に配慮するために設けられたものでありますけれども、仮に、仮にではありすけれども、これらの制度を廃止した場合の増収額について一定の前提を置いて機械的に試算を行うと、それぞれ、消費税の免税点制度については3500憶円程度、簡易課税制度については1500億円程度とみこんでおります[98]」と発言されている。

 もう一つ国側の試算である直近の数字として、軽減税率導入による減収分の財源案として、免税事業者に対する課税に注目が集まった。日本経済新聞によると財務省案では、「2023年10月にインボイス(税額票)制度が導入されると、大企業や中堅企業と取引するためにはインボイスを出して課税事業者になる必要が出てくる。売上高が1000万円以下で消費税を納税していない事業者が納税するようになり、税収が増える」ため、2000憶円が免税事業者への課税による増収分[99]と見込んでいる[100]という。

 上記の通り、各研究者の試算や国側の試算をもとにすると、先ほど述べたように、事業者免税点制度による益税の発生額は、年間で数千億円規模にのぼると推測される。国家の財政を考える上で、黙認できない規模であることは間違いないと思われる。


[89] 森信茂樹『抜本的税制改革と消費税』 大蔵財務協会(2007年10月)179頁

[90] 「SNAとは、System of National Accounts の略であり、「国民経済計算」と訳される。このSNAは、一国の経済の状況について、生産、消費・投資といったフロー面や、資産、負債といったストック面を体系的に記録することをねらいとする国際的な基準、モノサシです。」 内閣府HPより

[91] 橋本恭之・鈴木善充『租税政策論』 清文社(2012年6月)174頁

[92] 前掲(注)91のほかに平野正樹「消費税の論点整理と益税問題」岡山大学経済学会雑誌36(4)2005年3月 に詳しい。

[93] 橋本恭之・鈴木善充 前掲(注)91 177頁より

 表の橋本(2002b)は、橋本恭之「消費税の益税とその対策」税研 VOL.18No.2(2002年9月)であり、鈴木(2011a)は、前掲(注)84

[94] 鈴木善充 前掲(注)84 52~56頁

[95] 静大税制研究チーム『消費税の研究』 青木書店(1990年8月)171頁

[96] 平野正樹「消費税の論点整理と益税問題」 岡山大学経済会雑誌 36巻4号(2005年3月)177頁

[97] 羽田亨「消費税における中小事業者に対する特例措置と仕入税額控除制度について-益税の問題を中心にして-」 関東学園大学経済学紀要 第39集(2014年3月)8頁

[98] 「第186回国会参議院決算委員会会議録第6号」愛知治郎財務副大臣発言より(2014年4月28日)7頁

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detailPDF?minId=118614103X00620140428&page=6&spkNum=30&current=1 最終アクセス 2020年1月13日

[99] 日本経済新聞(電子版) (2018年10月27日)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37008340W8A021C1EA4000/ 最終アクセス2020年1月11日

[100] インボイス制導入による事業者免税点制度に対する影響は、極めて大きいため、第7章で改めて考察することにする。

第4項 益税でも損税でもない中立

改めて消費税の本来のあり方について考えてみると、益税も損税も正しい姿であるとはいいがたく、間接税である以上は、原則的に中立でなければならないのである。その点、西山教授は、EUの付加価値税の現状について紹介する論文の中で、「消費課税の至上命題は、最終消費者に至るまでの一連の取引で生じる税が、この一連の取引に関わる事業者にとってのコストにも利得にもなることなく、すなわち事業者が負担した仕入税相当額が増額したり減額したりすることなく、最終消費者に転嫁されることである」として、「EU域内の消費課税(付加価値税)においては、この命題を『中立原則』(principle of neutrality)と呼び、消費課税制度の基本原則と位置付ける[147]」と紹介している。この中立原則こそが、本来の消費税に求められる原則であり、「消費課税の究極の目標を達成するために消費課税において最も重要な原則である[148]」と思われる。そして、その中立原則を守るための方法を後の論述で探っていくことにする。


[147] 西山由美「消費課税の基本原則-「中立原則」の意義-」  税理VOL.57No.3(2014年3月)112頁

[148] 西山由美 前掲(注)147 118頁