第7章 インボイス方式による場合の事業者免税点制度

第4項 インボイス制度の下での事務負担について

1.インボイス制度の下で、改めて問題となってくるのは、小規模事業者の事務負担の問題である。この点について、「インボイス方式では取引の都度、インボイスの新たな発行とその保管が必要となり、また、インボイスに記載された税額に変動があれば訂正のインボイスが必要になる。特に小規模な事業者にとって取引の都度正確なインボイスを発行したり長期の保管等の事務は過重な負担となるであろう[289]」という声がある一方で、先に見た金子教授の意見同様「多くの事業者が取引において、すでにインボイスに近い請求書を使っていますし、直接税を払うための複雑な事務処理も行っています。その中で、インボイスを導入したからといって、それで格段に事務負担が増えるということはありません[290]」という声もある。

2.しかしこれらの議論は、既にインボイス制度の導入が決定された現在においては、最早重要ではないと思われる。それは、「新しい電子商取引の進展した現今においては、ペーパー・インボイスを前提とするインボイスについての議論は、過去の遺物と化しつつあるというべきかもしれない」として、「電子商取引が進展した究極の状態においては、インボイスそのものも請求書や領収書等の証憑と渾然一体となって、これらの区分の意味が失われるとも考えられる。その場合において残されるものは『表示すべき事項の法定』ということにすぎないであろう[291]」とする、ペーパー(紙)のインボイスを前提としない、電子インボイスを用いた新しい展開が示されているためである。この電子インボイスについては、この後の節で扱うことにする。


[289] 村瀬正則「インボイス導入の短所」 税研VOL.22No.4 日本税務研究センター(2007年1月)35頁

[290] 野口悠紀雄「インボイス導入の軽減税率で消費税制の適正化を図る」 第三文明No.673 第三文明社(2016年1月)25頁 

[291] 志賀櫻「消費税法-第6章 インボイス-」 税務事例Vol.44 No.8 財経詳報社(2012年8月)3頁

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