第7章 インボイス方式による場合の事業者免税点制度

第1項 インボイス制度の導入

1.本稿執筆中の令和元年10月1日に、消費税率は国・地方公共団体等を合わせて、8%から10%へと2%増税された。それと同時に、軽減税率制度が導入され、一定の取引については税率が8%に据え置かれる複数税率を持つ制度へと改正された。複数税率の導入と同時に導入されたのが、従来の請求書等保存方式を維持しつつ、区分経理に対応するための措置として「区分記載請求書等保存方式[274]」であり、従来の請求書等の記載事項[275]に加えて、「⑤軽減税率の対象品目である旨」「⑥税率ごとに区分して合計した対価の額(税込)」の2つの事項が新たに加えられることになった。

更には、4年後の令和5年10月1日から、複数税率に対応した仕入税額控除の方式として、「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス制度)が導入されることとなった。これにより、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書[276]」等を保存することが、仕入税額控除を受ける要件となった。

2.金子教授はかつて、インボイス方式を導入することの優位性について、「第一に、わが国でも、事業取引において、請求書・納品書等の発行が一般的であるから、それに取引対価の額に加えて100分の3[277]の消費税額を記載することとすれば、それはインボイス方式に外ならない。その意味では、インボイス方式は決して複雑ではなく、また事業者に過大な負担を課する制度でもない。第二に、インボイス方式の方が、事業者にとって、仕入税額の計算をより簡便にしかもより正確に行いうることである。特に、将来、税率が大幅に引き上げられて複数税率が採用された場合には、インボイス方式の方がはるかに正確に仕入税額控除を行いうると思われる。第三に、EU各国をはじめ多くの国々がインボイス方式を採用していることにかんがみると、税制の国際的統一(harmonization)の観点からも、インボイス方式への切り換えが好ましいと考える[278]」と分析されており、インボイス制導入こそ、わが国の消費税が国際的基準に適合したものになるための、最も重要な改革と位置付けていた。その意味で筆者は、今回のインボイス制導入を決定した英断を、高く評価する[279]者の一人である。


[274] 本方式の問題点として、免税事業者も税率ごとに区分した明細書を出すことが求められていることである。「これは大変奇妙なことで、納税のない者が税率や税額を決定し、顧客の税額控除の金額を左右することになる」(沼田博幸「消費税をより簡素で公正なものに-構造上の問題を中心として-」 租税研究838号(2019年8月)89頁)という問題を指摘する声があった。

[275] 国税庁HPより 

①発行者の氏名または名称

②取引年月日

③取引の内容

④受領者の氏名又は名称

[276] 国税庁HPより

従来の請求書等の記載事項である「①発行者の氏名又は名称」が「①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」(傍線筆者)に変更された。

[277] 当時の消費税率は、3%であった。

[278] 金子宏 前掲(注)4 16~17頁

[279] 「公平、中立、簡素という消費税の長所は、単一税率によってもたらされる」(金井恵美子「税率構造-軽減税率の法制化を踏まえて」日税研論集70 日本税務研究センター(2017年1月)462頁)という点で、単一税率というわが国の消費税の長所を失ったことと「(軽減税率)制度により、およそ1兆円の減収が見込まれる」(吉成俊治「平成28年度税制改革の論議-消費税の軽減税率制度と法人税改革」立法と調査No.379(2016年8月)1頁)という点は痛恨事ではあるものの、インボイス制度導入という大願を成就させたという点で、筆者は評価に値する改正であったと考える。

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