第2節 小規模事業者の実態

1.ここで改めて、そもそも個人事業者や小規模事業者とはどのような者か、という問題を考え直す必要があろう。その全容は、金井税理士の論文[257]に詳しいが、その一部を本稿で紹介させていただくことにする。中小企業庁が発行する「2018年版小規模企業白書」を確認すると、小規模企業とは、小規模企業振興基本法第2条第1項の規定に基づくおおむね常時使用する従業員が20人以下[258]である者をいう。「小規模企業白書」における小規模事業者[259]は、約325万者[260]であり、このうち、個人事業者が197.3万者(60.6%)を占め、その中で常用雇用者がない個人事業者113万者[261]になるという。

2.この常用雇用者がない個人事業者のうち、かなりの数の事業者が免税事業者に該当することと想定され、その取引先は、先に見たような大企業であることといった構図も描かれるところである。金井税理士によると、売上高が年間1000万円以下の個人事業者が営む事業所のうち、最も多数を占める業種はサービス業関連ということになり、サービス業関連の業種を多く含むフリーランス[262]について、次頁の表から考えて「かなりの者が免税事業者の範囲内にあるものと思われる[263]」としている。

 また、「シルバー人材センターを介して行われる仕事は、その多くが役務提供を伴うものであるためサービス業関連の業種」となり「シルバー人材センターに加入する会員は、請負又は委任契約に基づいて働くので、労働者ではなく事業者となる」という。統計[264]によると、平成30年の当該会員数は全国で約71万人であり、全体の契約金額を人員数で除算すると、1人当たり平均約44.6万円(年)となり、「他に事業を営んでいない限りほぼすべてが免税事業者であろう[265]」としている。


3.また、サービス業関連の個人事業者に関しては、厚生労働省が報告書を公表し、「近年、就業形態の多様化に伴い、業務委託契約や請負契約に基づいて就業する者(個人請負型就業者)が増加して」いること、「またこの中には、実態として雇用労働と変わらない者や、自営であるものの雇用労働に近い実態を有する(雇用と自営の中間とも言える)働き方の者がいる[266]」点を指摘し、その者の実数が100万人規模[267]であると推計している。

 同報告書の求人調査によると、個人請負型就業者の業種は、対個人サービス業(エステ、塾等)、道路貨物運送業、卸・小売業、飲食店等が多く、職種としては、高度な専門性を要する職種から、未経験者でも受託可能な職種まで、多様な職種[268]にまたがって従事していることが明らかになった。

 また、同報告書のアンケート調査によると、企業が個人請負型就業者を活用するメリットとしては、①専門的業務に対応できる、②即戦力・能力のある人材が確保できる、③人件費が節約できる、④臨時・季節的業務量の変化に対応できる等があり、デメリットは①雇用とは違い、特定の人材を継続的に囲い込んでおくことがむずかしいこと、②業務遂行の質を確保することが困難なこと等[269]が挙げられている。

4.メリットのうち、③の「人件費が節約できる」に関しては、個人請負型就業者は各労働法規[270]の適用がないという点で、社会保険料を支払わなくてよい等[271]、人件費の節減に寄与していることになる。

 そして、最も重要視すべき点は「税務上は、請負契約に基づく支払は、消費税の仕入税額控除の対象になるということが最大の人件費の削減につながっている[272]」という点である[273]。ただし、この点で「個人請負型就業者については、それがいわゆる『偽装請負(委託)』であって各労働法規の適用を受ける『労働者』か否かの問題とともに、税務上は、個人事業者と給与所得者の区分の問題として、消費税の取扱いおよび、所得税の源泉徴収義務の有無に関して紛争事例が生じる分野でもある」として、金井税理士は、問題を指摘している。

5.本節では小規模事業者について、金井税理士の論文を手掛かりに、その実像を具体的な業種を挙げて確認してきた。そこから伺い知ることができたことは、約325万者いる小規模事業者のうち、約3割を占める者(約100万者)が、被用者に近い個人請負型就労者であるという事実である。また、その就労者の多くが免税事業者である可能性が高い実態であり、そのことは裏を返せば、就業者の就業先である大企業等に、巨額の仕入税額控除という益税が発生している可能性が高い、という実態を示している。


[257] 金井肇 前掲(注)252 375~383頁

[258] 中小企業庁編「2018年版 小規模企業白書」(2018年7月)

 サービス業・小売業は、5人以下。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/shokibo/00sHakusyo_zentai.pdf 最終アクセス2020年1月6日

[259] 小規模企業白書では、「小規模企業者」を対象とするが、この中には「会社」のみならず、「個人事業者」も含まれることをわかりやすく記すため、「小規模企業者」のことを「小規模事業者」ということとする。

[260] 中小企業庁編 前掲(注)258 27頁

企業数は、全体で382万者あり、大企業は約1.1万者(0.3%)中規模企業約56万者(14.6%)小規模事業者約325万者(85.0%)となり、中小企業が99.7%を占める。

[261] 前掲(注)258 28~29頁

「常用雇用者」とは、「経済センサス」の定義によれば、期間を定めずに雇用されている人若しくは1か月を超える期間を定めて雇用されている人、または調査対象の前2か月にそれぞれ18日以上雇用されている人をいう。 

[262] 金井税理士によると「フリーランスは、必ずしも明確な定義があるわけではないが、一般的には、ソフトウェアの設計・開発(SE)、ウェブデザイン、ライティング等、自らの持つ技術や技能を拠り所に、組織に属さずに個人で活動する事業者として捉えられている」という。

[263] 金井肇 前掲(注)252 378~380頁

[264] 公益社団法人シルバー人材派遣センター事業協会 平成30年度全国統計 http://www.zsjc.or.jp/toukei/toukei_pdf?id=13 最終アクセス 2020年1月11日

[265] 金井肇 前掲(注)252 378頁

[266] 「個人請負型就業者に関する研究会報告書」厚生労働省政策統括官(労働担当) (2010年4月)3頁
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000005yde-img/2r98520000005ygi.pdf 最終アクセス2020年1月6日

[267] 厚生労働省政策統括官(労働担当) 前掲(注)266 10頁

「個人請負型就業者に関する公的な統計は存在しないため、その総数を正確に把握することは難しいが、山田久(2008)は国勢調査からの推計で、2000年では約63万人であったのが、2008年には約110万人まで増加していると指摘している。また、労働政策研究・研修機構「多様な働き方の実態と課題」(2007)によれば、労働力調査から各種補正を行った結果、125万人と推計されている。」

[268] 厚生労働省政策統括官(労働担当)前掲(注)266 12~13頁

 職種としては、システムエンジニア等の技術者や建設業の一人親方、運送員、外交員といった従来から請負が多いと考えられるもののほか、エステティシャン、美容アドバイザー、講師、(宴会等の)配膳、調理補助、受付、ゴルフキャディなどが確認された。

[269] 厚生労働省政策統括官(労働担当) 前掲(注)266 382頁

[270] 労働基準法、労働契約法、労働者災害補償保険法、雇用保険法等をさす。

[271] 原聡美「個人請負・業務委託の現状と今後に備える」 ファイナンシャルコンプライアンス40巻11号(2010年11月)102頁

 他にも、「出退勤の管理が不要で時間外労働に対する割増賃金を支払わなくてよい」「有給休暇を与える必要がない」「最低賃金の適用がなく、報酬額を双方の話し合いにより自由に決められる」「諸経費込みで業務委託するため、経費を節減しやすい」等の節減効果が指摘されている。

[272] 金井肇 前掲(注)252 383頁

筆者の考えでは「消費税の控除」が「人件費の削減」となるわけではなく、あくまで同じ金額を支払うのであれば、給与として支払えば仕入税額控除が全く受けられないのに対し、外注費として支払えば、仕入税額控除が受けられる点で、企業側が有利になるため、と思われる。

[273] 消費税と雇用形態の関係を論じた文献として、「消費税アップは非正規雇用を増大させる~労働総研による試算~」労働レーダー第36巻第4号(2012年4月)2頁