1.上記の3節を通じて、事業者免税点制度に加えられた主な改正について、時系列的に掘り下げてみた。本制度は、その他にも、「調整対象固定資産を取得した場合の特例[230](平成22年改正)」や「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例[231](平成28年改正)」といった自販機スキーム[232]に対応した改正があり、その上、「消費税法は当初から個人についての相続や法人についての合併の場合について特例規定を有していたが、平成13年には分割法人の特定要件の特例が導入され、この後、相続・合併分割時の規定整備(平成15年)、分割法人の特例要件の見直し(平成18年)、法人課税信託への対応(平成19年)」など、幾多の細かい改正があることから、佐藤教授は「課税売上高を基準とした免税制度が適切に機能するためには、多くの派生規定が必要となり、それによって消費税法が複雑化していることには、留意すべきである[233]」として、複雑化する事業者免税点制度について、警鐘を鳴らしている。
2.また、熊王教授は、このような状況を「場当たり的に改正され、実務の現場は混乱の一途を辿っている」ことから、「『特例新規設立法人の納税義務の免除の特例』が新設されたことにより、新設法人の免税期間を利用した租税回避スキームは基本的に防止されることとなったのであるから、そろそろこの辺りで交通整理も必要ではないだろうか」として、平成23年度改正の「特定期間における納税義務の免除の特例」については、「小規模事業者の実務を悪戯に混乱させるだけのものであり、消費税に対する国民の信頼を失う危険性の高い規定であるからこの機会に廃止することを提案したい[234]」と
して、法の縮小化を提言している。高名な実務家の提言として、その価値を重く受け止める必要があり、また「交通整理」の必要性は、一実務家としての筆者も強く認識するところである。
今後も、事業者免税点制度を悪用した新たな租税回避的なスキームは現れてくるであろうし、それに対しては、適切に対応していく必要はあるものの、その対応は本稿で取り上げた3回の改正を見ても分かる通り、難化・複雑化の一途を辿るであろうことは想像に難くない。佐藤教授は、「納税義務者に関連する小規模事業者免税制度に加えられた数次の改正は、いったん開けた『大きな穴(例外)』を後からふさぐ難しさを示している[235]」と評しており、消費税においては、出来る限り「例外の少ない」制度を指向すべきと指摘している。
[230] 法第9条第7項、法第37条第3項
[231] 法第12条の4、法第37条第4項
[232] 自販機スキームとは、本来、仕入税額控除の対象とならない非課税売上に対応する課税仕入れ(例えば、居住用賃貸アパートの建物)を、自販機売上げを計上し、意図的に課税売上割合を操作することにより、仕入税額控除を受け、巨額の消費税還付を受ける方法をいう。
[233] 佐藤英明 前掲(注)35 23頁
[234] 熊王征秀 前掲(注)225 139~140頁
[235] 佐藤英明 前掲(注)35 24頁