第6章 法改正における問題点

第3節 特定新規設立法人の納税義務の免除の特例

1.会計検査院からの指摘もあり、前回の改正から1年後、「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例」が施行された。 

本改正の概要は、法人が「特定新規設立法人」に該当する場合には、納税義務は免除されずに課税事業者になるという規定である。特定新規設立法人に該当する場合とは、新規設立法人[216]のうち、次の2要件を満たすものをいう。

①新設開始日[217]において特定要件[218]に該当すること

②特定要件の判定の基礎となった他の者及び当該他の者と一定の特殊な関係にある法人のうちいずれかの者のその新規設立法人の新設開始日の属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高として一定の金額が5億円を超えること

 

特定要件とは、「他の者」により新規設立法人が支配される場合を言い、この「他の者」とは「実質的に企業グループの中心となる者をいうのであるが、消費税法上は『ある特定の者』という意味に過ぎず、新規設立法人との関係を具体的に表現するものではない」という。その理由は、「本条が事業者免税点制度を利用した租税回避行為を封じるための規定であり、名義貸しや株式の分散保有の可能性を考えると、形式的に設立者、発起人と決めつけて表現することが適当でないため[219]」であるという。先の第2章第3節にみた人材派遣スキームを例にとると、ダミーの子会社を次々と設立した実質的な経営者である原告代表者Xが「他の者」に該当することになる。また、他の者により新規設立法人が支配される場合とは、下記注のいずれかに該当する場合[220]をいう。

法令25条の2の趣旨としては、「他の者」とその「特殊関係法人」が新規設立法人を支配する場合の説明であり、「他の者」と「特殊関係法人」の株式又は出資の持ち分の合計が50%超である場合に「支配」に該当することになる、ということである。また、法令25条の2第2項において、親族等の範囲[221]を定めており、内縁関係者や使用人なども含まれることとなった。

また、特殊関係法人とは、次の①から③に掲げる法人のうち、非支配特殊関係法人[222]以外の法人とする(法令25の3①)。

① 他の者が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

② 他の者及びこれと①に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

③ 他の者及びこれと①②に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

文章のみでは分かりづらいため、次頁にイメージ図[223]を付した。①は⑴のケースであり、②は⑵のケース、③は⑶のケースに対応し、⑷のケースは、甲と乙が同一生計の場合には丙社が特定新規設立法人に該当し、別生計の場合には、非特定新規設立法人となり、本規定には該当しない。

2.ダミー会社の人材派遣スキームは、子会社として新たに設立されたダミー会社が免税事業者である点を悪用した事例であったが、本改正により、「他の者」又は「特殊関係法人」が基準期間相当期間における課税売上高が、5億円を超えていれば、子会社であるダミー会社は課税事業者となり、スキームを無効化することができた。従来の納税義務の判定対象者はその事業者のみであったが、納税義務の判定対象者をグループ会社に拡張させることで、本改正は、効力を発揮した。その意味で、本改正によりダミー会社の人材派遣スキームにみたような親族間の名義貸しや社員等への株式の分散保有による租税回避スキームを排除することが可能になった点を評価することができる。

また、「解散した法人を判定の対象に含めたことが実務的である」とする声や「最も規制されるべき、数十億、数百億の売上を計上しながら1年7か月間免税であるという問題が、実務的に解決されたことになる[224]」といった声があり、「新設法人の免税期間を利用した租税回避スキームは基本的に防止されることになった[225]」という声もあり、本改正に対する各専門家の評価は、おおむね好評である。

3.その一方で、従来の基準期間における判定では、免税点が1000万円であるのに対し、本改正の基準期間相当期間における免税点[226]は5億円と従来基準の50倍の水準に設定された。これは、大規模事業者等(課税売上高が5億円を超える規模の法人が属するグループが)が50%超の持分を有する法人を設立した場合を想定したものと思われるが、5億円以下の課税売上高を持つ事業者[227]であれば、人材派遣スキームが有効となってしまう点が、筆者には気に掛かる。スキームを組む法人が大規模事業者等だけであるとは限らない[228]し、また、本改正は、大規模事業者等に対してだけスキームを排除する手当を施しただけであり、スキーム自体の根治につながっていない対症療法である、と言わざるを得ないためである。

また、「50%超の持分」という点で、50%以下に持分を抑えつつ、会社の支配関係を維持する(例えば、「他の者」に該当しない親しい知人の経営者同士で、株式を持合うといった方法)抜け道や、子会社を設立して、2年間休眠させて、「基準期間がない課税期間」から外れ、本規制の対象から外れる方法[229]なども、筆者を含め実務にたずさわる者の間で、抜け道として想定されており、これ以外にも様々な抜け道を提供してしまいそうである。


[216] その事業年度の基準期間がない法人(新設法人及び社会福祉法人を除く。)をいう。

[217] 基準期間がない事業年度開始の日をいう。

[218] 新規設立法人の発行済株式又は出資(自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の50%超が他の者により直接又は間接に保有される場合等であることをいう。

[219] 武田昌輔監修 前掲(注)1 1789の6頁

[220] 法施行令第25条の2 新規設立法人が支配される場合

⑴ 他の者が新規設立法人の発行済株式又は出資(自己株式を除く。以下、「発行済株式等」という)の総数又は総額の50%超の株式数又は出資を有する場合

⑵ 他の者及び次に掲げる者が新規設立法人の発行済株式等の総数又は総額の50%超の株式又は出資を有する場合

①他の者の親族等

②他の者(他の者が個人である場合には、他の者の親族等を含む)が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

③他の者及びこれと②に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

④他の者並びにこれと②及び③に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

⑶ 他の者及び⑵①~④までに掲げる者が、新規設立法人の議決権(行使することができない株主等が有する議決権等を除く。)の総数の50%超を超える数を有する場合

⑷ 他の者及び⑵①~④までに掲げる者が、新規設立法人の株主等(持分会社の社員に限る。)の過半数を占める場合

[221] ① 当該他の者の親族

② 当該他の者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

③ 当該他の者(個人の場合に限る。④において同じ。)の使用人

④ ①~③に掲げる者以外の者で当該他の者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの

⑤ ②~④に掲げる者と生計を一にするこれらの親族

[222] 非支配特殊関係法人の定義

非支配特殊関係法人とは、次の①から③に掲げる法人をいう(法施行令第25条の3第2項)

①他の者と生計を一にしない他の者の親族等(以下、「別生計親族等」という)が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

②別生計親族等及びこれと①に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

③別生計親族等及びこれと①②に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

[223] 熊王征秀「特定新規設立法人の事業者免税点制度の不適用制度」T&A master No.528 新日本法規出版(2013年12月)87頁

[224] 芹澤光春『消費税 重要論点の実務解説』 大蔵財務協会(2018年11月)97頁

[225] 熊王征秀「平成23年度消費税改正の問題点を検証する」研究年報第7号 大原大学院大学研究年報編集員会(2013年3月)139頁

[226] 基準期間による判定と計算方法自体は変わらない。

[227] 人材派遣スキームを使うようなグループ会社をもつ事業者であれば、課税売上高をグループ会社に分散させて、5億円以下に調整するようなことは難しくない、と思われる。

[228] 本スキームを実行するためには、新法人を複数設立する際の登記費用や税務申告・相談費用がかかるため、一定規模の事業者でなければ、かけたコストに見合わないであろうという想定のもとで、大規模事業者等に対象を限定したと思われる。

[229] 「新設開始日において特定要件に該当すること」のうち、「新設開始日」を2年間の休眠により、回避するスキームである。

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