第3節 EU諸国における免税事業者

西山教授によると「EUの付加価値税共通ルールでは、日本で一般に『免税事業者』と呼ばれる小規模事業者は、人的非課税として位置づけられている(2006年付加価値税指令-282条)。そしてこの非課税事業者からの仕入れについては、税額控除が認められない[163]」ことになり、また、免税事業者になることは、「インボイスの発行が禁止されるため、取引上かえって不利になるとして、実務的にも零細事業者以外の事業者からは敬遠されている[164]」ようである。

 また、EU諸国では、「『事業者』は、『事業者』であるというステータスゆえに、自分が購入した『モノ』・『サービス』の付加価値税を還付してもらえる[165]」ことになり、「会社(事業者)にとって、付加価値税は『コスト(費用)』ではない[166]」と受け止められていることから、免税事業者であることに対するメリットが少なく、更に言うと「EU諸国では、『益税』という言葉は存在しない[167]」という状況である。

 このように、「EU諸国においては、課税事業者になることは、前段階の税額を控除できる特権を得ることと捉えられているからこそ、当期の見込み売上高基準により、当期の中途から課税事業者となったとしても、問題とされることがない[168]」と山田教授は、分析している。

 逆にわが国では、「免税事業者は納税しなくて良いから儲かる、というような『節税』につながる考えが主流であると思料され[169]、仮に当期の見込み売上高基準によって、当期の開始時に遡って納税義務を課したとすれば、不利益訴求として争いになると危惧される[170]」ため、「例えばドイツのように、免税事業者にとどまろうとする者よりも課税事業者になることを選択する者が多いというような、現在の我が国の納税環境とは逆の流れになることをまたなければ、納税者等が混乱することになるのでないだろうか[171]」と指摘し、また、わが国も令和5年10月にインボイス制度が導入されることをきっかけにして、当期の見込み売上高基準の導入を検討する余地が出てくるのではないかと提言されている。

 山田教授の提言は、国民感情に配慮した穏当な意見であるが、筆者は、金子教授が「最も重要な改革」と位置付けるインボイス制度の導入[172]に合わせて、見込み売上高基準を同時に導入することも検討するべきであると考える。

なぜならば、諸外国と現在のわが国との制度的な相違点として、諸外国は税額控除の方法がインボイス方式であるのに対して、わが国は「OECD加盟国で唯一、国家レベルで、仕入れに係る税額を控除する方法として仕入控除方式(いわゆる帳簿方式)を採用している[173]」点を挙げることができ、その相違点は、インボイス制の導入時に解消されることから、基準期間についても、OECD加盟各国と同様の仕組みを取り入れることがインボイス制の正しい理解にもつながると考えられるからである。

それは、西山教授の指摘する「中立原則」に基づいた消費税のあるべき姿であり、森信教授が言う「益税という言葉が存在しない」健全な姿でもある。幸いにして、インボイス制の導入までに十分な時間が残されていることから、現在のこの時期に、国会の議論の俎上に載せ、国民に周知することが、わが国の消費税が真に国際的な基準に適合することにつながる、と思われるためである。


[163] 西山由美「消費課税システムにおける『税額転嫁』」 税理VOL.57No.1(2014年1月)106頁

[164] 岩﨑政明 前掲(注)26 322頁

[165] 池田良一『欧州ビジネスのためのEU税制』 税務経理協会(2013年1月)180頁

[166] 池田良一 前掲(注)165 268頁

[167] 森信茂樹 前掲(注)86 39頁

[168] 山田晃央 前掲(注)8 75頁

[169] インターネット検索サイト(グーグル)で「消費税節税」と検索すると会計事務所による解説サイト等が、約452万件ヒットした(2019年11月4日現在)

[170] 山田晃央 前掲(注)8 75~76頁

[171] 山田晃央 前掲(注)8 78頁

[172] 金子宏 前掲(注)14参照

[173] 鎌倉治子 前掲(注)156 77頁