第3節 基準期間の意義について

第1項 裁判の内容

鳥取地方裁判所 平成12年5月16日判決[69]

【事案の概要】

 本件は、ビジネスホテルの経営や管理等を業として営む原告が、平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度を課税期間とする消費税について、課税売上高を2840万円余として確定申告(基準期間における課税売上高は、3864万円余)した後、同年6月25日、本件事業年度を課税期間とする消費税について、法9条1項によって納税義務が免除されるべきであるとして行った更正の請求に対して、被告(倉吉税務署長)がなした更正すべき理由がない旨の通知は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

【原告の主張】

1.被告は、法人たる事業者の消費税の納税義務が免除されるか否かは、基準期間である前々事業年度の課税売上高が3000万円以下であるか否かによって決定されるとの解釈を前提にしているが、この解釈を前提とした場合、例えば、ある事業者の課税期間の課税売上高が3億円であっても、基準期間である前々事業年度の課税売上高が3000万円以下であれば、右課税期間に係る消費税については、納税が免除されることになる。

 しかし、現実には、一般的な事業者は、消費税の納税義務が免除されない場合には取引相手から消費税を徴収して、免除される場合には消費税を徴収しない、というようなことはしておらず、また、現状としても、消費税法施行以来現在に至るまで、免税事業者は、消費税を徴収して納税せず自分のポケットに入れているのであるから、右の例であれば、その事業者は、3億円の5%にあたる1500万円を取引相手から預かるが、その預り金を納税せずに収益金としてしまうことになる。このようなことが適正であるとされるならば、納税者の理解と納得は得られない。

2.被告は、法9条1項は、納税事務の負担や税務執行面に対する配慮から規定されたものであり、消費税を適正に転嫁することができるようにするために、基準期間である前々事業年度の課税売上高から、課税期間である事業年度の当初の取引から消費税を上乗せした金額をその取引相手から請求するべきか否かの判断を容易にさせて、取引の円滑化を図ったものであると主張するが、前記のとおりの現状からすれば、適正な転嫁という被告の主張は説得力がない。

3.原告は、ホテル開業以来、消費税をホテル利用者に転嫁せず、徴収していないのであるから、本税を課税されることは承服できない。それなのに、一律に課税が可能であるとの被告の解釈は、消費税の基本的な趣旨に反し、全納税者及びすべての事業者の常識ともなっている3000万円以下の売上高の事業者は免税されるとの社会通念に反し、消費税法が制定された立法目的に著しく逸脱したものであって容認できない。

【裁判所の判断】

請求棄却

1.消費税法は、「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法により、消費税を納める義務がある」(法5条1項)と定めるとともに、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3000万円以下である者については、同法に別段の定めがある場合を除いて、同法5条1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する(法9条1項)としている。そして、同法において、課税期間とは、法人については、事業年度(法19条1項2号)であるとし、基準期間とは、法人については、その事業年度の前々事業年度(法2条1項4号)であるとしている。

2.よって、本件は同法に規定する別段の定めがない場合に該当すると解され、法9条1項によって消費税の納税義務が免除されるためには、本事業年度の前々事業年度である平成7年事業年度における課税売上高が3000万円以下であることが必要であり、原告の平成7年事業年度における課税売上高は、前述のとおり、3000万円以下ではないのであるから、法9条1項によって納税義務を免除されるための要件を充足していないことは明らかである。

 したがって、原告の主張には、理由がない。


[69] TKC法律情報データベース『LEX/DBインターネット』文献番号28090261 株式会社TKC HP