第2章 事業者免税点制度の問題点を内包する裁判例

第1節 免税事業者の課税売上高(張江訴訟)

第2章 事業者免税点制度の問題点を内包する裁判例

第1項 裁判の内容

最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決43

事業者免税点制度についての問題として、免税事業者であった基準期間における課税売上高の判定を税込で行うか税抜で行うかで争われた事例である。

【事案の概要】44

株式会社X(上告人)が、本件課税期間(平成5年10月1日から同6年9月30日まで)に係る基準期間(平成3年10月1日から同4年9月30日まで)において免税事業者であり、基準期間における課税売上高が、実際の売上総額は3052万円余であったが、税抜で判断すると3000万円以下になるとして、本件課税期間においては免税事業者であるため、納税義務はないとして申告しなかった。

これに対し、税務署長Y(被上告人)は、平成7年において、Xは基準期間において免税事業者であり、課されるべき消費税額に相当する額は存在しないため、基準期間における課税売上高は3052万円となり、Xは本件課税期間において課税事業者に当たるとして、Xに対して消費税の決定および無申告加算税の賦課決定(以下「本件課税処分」という)をした。Xは本件課税処分の取消しを求めて提訴した。

【上告人の主張】

1.法4条1項が免税事業者、課税事業者の区別なく「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する」とし、4条1項の例外である6条1項45には「消費税を課さない」という文言が用いられていること、法9条1項46が法6条1項と異なり、「消費税を課さない」という文言ではなく、「消費税を納める義務を免除する」という文言を用いていることから、免税事業者を含むすべての事業者の取引に消費税が課され、ただし免税事業者の場合には法9条によってその税を納める義務が免除されるにすぎないと読むのが文理解釈上自然である。

2.基準期間において免税事業者であった者と課税事業者であった者とを別異に扱うべきではなく、本件基準期間における実際の売上総額(3052万円余)について、課税事業者と同様に、消費税に相当する額を控除すべきである。これを控除すると、基準期間における課税売上高は3000万円以下となり、したがって、本件課税期間において納税義務はない。

3.毎年の売上総額が3060万の事業者の課税売上高は、課税事業者であるときは2970万円余となり、これを基準期間の課税売上高とする2年後は免税事業者として3060万円とされる結果、同一の営業規模であるのに、2年ごとに課税事業者と免税事業者とを繰り返すという不合理な結果となる。

【裁判所の判断】

上告棄却

1.法9条1項に規定する「基準期間における課税売上高」とは、事業者が小規模事業者として消費税の納税義務を免除されるべきものに当たるかどうかを決定する基準であり、事業者の取引の規模を測定し、把握するためのものに他ならない。ところで、資産の譲渡等を課税の対象とする消費税の課税標準は、事業者が行う課税資産の譲渡等の対価の額であり(法28条1項47)、売上高と同様の概念であって、事業者が行う取引の規模を直接示すものである。そこで、法9条2項1号48は、上記の課税売上高の意義について、消費税の課税標準を定める法28条1項の規定するところに基づいてこれを定義している。

2.法28条1項の趣旨は、課税資産の譲渡等の対価として収受された金額等の中には、当該資産の譲渡等の相手方に転嫁された消費税に相当するものが含まれることから、課税標準を定めるに当たって上記のとおりこれを控除することが相当であるというものである。したがって、消費税の納税義務を負わず、課税資産の譲渡等の相手方に対して自らに課される消費税に相当する額を転嫁すべき立場にない免税事業者については、消費税相当額を上記のとおり控除することは、法の予定しないところというべきである。

3.以上の法9条及び28条の趣旨、目的に照らせば、法9条2項に規定する「基準期間における課税売上高」を算定するに当たり、課税資産の譲渡等の対価の額に含まないものとされる「課されるべき消費税に相当する額」とは、基準期間に当たる課税期間について事業者に現実に課されることとなる消費税の額をいい、事業者が同条1項に該当するとして納税義務を免除される消費税の額を含まないと解するのが相当である。

4.前記事実関係によれば、上告人は、本件基準期間において、売上総額が3000万円を超えており、かつ、免税事業者に該当していたというのである。そうすると、Xは、本件課税期間において、免税事業者に該当しないこととなるから、本件各決定が違法であるとはいえない。

  • 43 民集59巻2号245頁
  • 44 田中治「免税事業者の課税売上高」『租税判例百選(第6版)』 有斐閣(2016年6月)165~166頁
  • 45 法第6条(非課税)第1項 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。
  • 46 法第9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)第1項 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1000万円(筆者注:事件当時は、3000万円)以下である者については、第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。ただし、別段の定めがある場合は、この限りでない。
  • 47 法第28条(課税標準)第1項 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額を含まないものとする)とする。(後略)
  • 48 法第9条第2項 前項に規定する基準期間における課税売上高とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める金額をいう。 1 基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額(法第28条第1項に規定する対価の額をいう)の合計額から、売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額
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