第1節 免税事業者の課税売上高(張江訴訟)

第2章 事業者免税点制度の問題点を内包する裁判例

第1項 裁判の内容

最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決43

事業者免税点制度についての問題として、免税事業者であった基準期間における課税売上高の判定を税込で行うか税抜で行うかで争われた事例である。

【事案の概要】44

株式会社X(上告人)が、本件課税期間(平成5年10月1日から同6年9月30日まで)に係る基準期間(平成3年10月1日から同4年9月30日まで)において免税事業者であり、基準期間における課税売上高が、実際の売上総額は3052万円余であったが、税抜で判断すると3000万円以下になるとして、本件課税期間においては免税事業者であるため、納税義務はないとして申告しなかった。

これに対し、税務署長Y(被上告人)は、平成7年において、Xは基準期間において免税事業者であり、課されるべき消費税額に相当する額は存在しないため、基準期間における課税売上高は3052万円となり、Xは本件課税期間において課税事業者に当たるとして、Xに対して消費税の決定および無申告加算税の賦課決定(以下「本件課税処分」という)をした。Xは本件課税処分の取消しを求めて提訴した。

【上告人の主張】

1.法4条1項が免税事業者、課税事業者の区別なく「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する」とし、4条1項の例外である6条1項45には「消費税を課さない」という文言が用いられていること、法9条1項46が法6条1項と異なり、「消費税を課さない」という文言ではなく、「消費税を納める義務を免除する」という文言を用いていることから、免税事業者を含むすべての事業者の取引に消費税が課され、ただし免税事業者の場合には法9条によってその税を納める義務が免除されるにすぎないと読むのが文理解釈上自然である。

2.基準期間において免税事業者であった者と課税事業者であった者とを別異に扱うべきではなく、本件基準期間における実際の売上総額(3052万円余)について、課税事業者と同様に、消費税に相当する額を控除すべきである。これを控除すると、基準期間における課税売上高は3000万円以下となり、したがって、本件課税期間において納税義務はない。

3.毎年の売上総額が3060万の事業者の課税売上高は、課税事業者であるときは2970万円余となり、これを基準期間の課税売上高とする2年後は免税事業者として3060万円とされる結果、同一の営業規模であるのに、2年ごとに課税事業者と免税事業者とを繰り返すという不合理な結果となる。

【裁判所の判断】

上告棄却

1.法9条1項に規定する「基準期間における課税売上高」とは、事業者が小規模事業者として消費税の納税義務を免除されるべきものに当たるかどうかを決定する基準であり、事業者の取引の規模を測定し、把握するためのものに他ならない。ところで、資産の譲渡等を課税の対象とする消費税の課税標準は、事業者が行う課税資産の譲渡等の対価の額であり(法28条1項47)、売上高と同様の概念であって、事業者が行う取引の規模を直接示すものである。そこで、法9条2項1号48は、上記の課税売上高の意義について、消費税の課税標準を定める法28条1項の規定するところに基づいてこれを定義している。

2.法28条1項の趣旨は、課税資産の譲渡等の対価として収受された金額等の中には、当該資産の譲渡等の相手方に転嫁された消費税に相当するものが含まれることから、課税標準を定めるに当たって上記のとおりこれを控除することが相当であるというものである。したがって、消費税の納税義務を負わず、課税資産の譲渡等の相手方に対して自らに課される消費税に相当する額を転嫁すべき立場にない免税事業者については、消費税相当額を上記のとおり控除することは、法の予定しないところというべきである。

3.以上の法9条及び28条の趣旨、目的に照らせば、法9条2項に規定する「基準期間における課税売上高」を算定するに当たり、課税資産の譲渡等の対価の額に含まないものとされる「課されるべき消費税に相当する額」とは、基準期間に当たる課税期間について事業者に現実に課されることとなる消費税の額をいい、事業者が同条1項に該当するとして納税義務を免除される消費税の額を含まないと解するのが相当である。

4.前記事実関係によれば、上告人は、本件基準期間において、売上総額が3000万円を超えており、かつ、免税事業者に該当していたというのである。そうすると、Xは、本件課税期間において、免税事業者に該当しないこととなるから、本件各決定が違法であるとはいえない。

  • 43 民集59巻2号245頁
  • 44 田中治「免税事業者の課税売上高」『租税判例百選(第6版)』 有斐閣(2016年6月)165~166頁
  • 45 法第6条(非課税)第1項 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。
  • 46 法第9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)第1項 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1000万円(筆者注:事件当時は、3000万円)以下である者については、第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。ただし、別段の定めがある場合は、この限りでない。
  • 47 法第28条(課税標準)第1項 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額を含まないものとする)とする。(後略)
  • 48 法第9条第2項 前項に規定する基準期間における課税売上高とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める金額をいう。 1 基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額(法第28条第1項に規定する対価の額をいう)の合計額から、売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額

第2項 本事例の検証

1.本件の争点は、課税期間に係る基準期間において免税事業者であった者について、当該課税期間に免税事業者に該当するか否かを判断する場合、基準期間における課税売上高の算定に当たり、課税資産の譲渡等につき「課されるべき消費税に相当する額」を控除すべきか否かである。

消費税導入当初は「実務家、研究者においても控除説は決して少数意見ではなかった上、課税庁が行う講習等において、あるいは課税庁による個別の指導においても、消費税相当額を控除して計算するよう説明された、とする多くの証言も存在する49」という。租税実務上は、本事件の更正処分直後の平成7年12月25日付の基本通達50において非控除説の立場が示された51。

2.また、この最高裁判決により、非控除説によることが確定したが、学説は、控除説と非控除説とに分かれており、両説の論拠は、森英明調査官の論文52に詳しい。

ここで一部を紹介すると、控除説の立場をとる田中教授は、法9条が「事業者」を課税事業者と免税事業者を明示する事無く、使用している点を指摘した上で「判決の考え方によれば、実際に3090万円の売上げをもつ課税事業者に匹敵するのは、実際に3000万円の売上げをもつ免税事業者だとするが、これは明文の根拠規定なく、ダブルスタンダードを持ち込んで、理由なく免税事業者を不利に扱うものであって、これこそ租税法律主義違反というべきであろう」53として、厳しく批判している。

また、森下教授は、「『免税事業者を消費税メカニズムの適用除外とする』という基本理論からすれば、免税事業者を『消費税相当額を転嫁すべき立場にない』と位置付けるのは当然の帰結であると考える。しかし、租税法律主義の観点からすれば、事業者の属性によって異なる計算方法を適用するためには、消費税制度の理論上は当然の帰結であったとしても、立法論として、やはりその具体的な取扱いの差異を消費税法上に確定的に規定しておくことが望ましいのではないか」54と提言されている。

3.筆者が思うに本事例の問題点は、控除説・非控除説について「法文からはどちらの解釈も成立する余地があり、また制度趣旨から一律の結論が導き出せない」55という曖昧かつ不親切な法の規定ぶりにある、と考える。その点で湖東教授は、「諸外国においては免税水準等につき税込みか否かを法規定において明確に示している。英国とフランスの場合課税売上高に税を含めず、ドイツの場合税を含めたところの金額としている。」56として、我が国の消費税法も諸外国に範を取って「解釈通達等ではなく法改正により直接かつ明文で規定すべきである。そうすれば租税法律主義の要請に適うとともに納税者に法的安定性、予測可能性をもたらし、今回の事件のような無意味な係争は生じない」57とし、「ドイツが規定するように、消費税法9条1項を『事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高(消費税に相当する額を含む)が三千万円以下である者については……』とすべき」としている。

4.判決当時は、免税点が1000万円に下がった58ことで、この問題は「実務的には、この判決に影響を受けることは少ない」59との声も上がっていたが、税率が10パーセントとなり、更なる増税が見込まれる今日において、むしろ影響が大きくなっていると考えられる60ため、早急に解決すべき問題であると思われる。

また、最高裁判決は、同水準の課税売上高を保つ事業者が、2年ごとに免税事業者と課税事業者の「ぐるぐる回り」が生ずるという問題61について何ら明確な答えを出していない。この2つの問題については、後ほど章を改めて改善点を探っていくことにする。

5.また、裁判では問題にならなかったが、「本判決は、課税資産の譲渡等を行った事業者の立場からの考察のみであり、課税資産の譲渡等の相手方である仕入事業者の立場からの考察はしていないという点を指摘しなければならない」として、「免税事業者の課税資産の譲渡等の受け取り対価の総額の中には消費税相当額が含まれておらず、その相手方の支払対価の総額の中には消費税相当額が含まれているという整合性の無さが、最高裁判決が下された現在においても完全に納得し切れない専門家がいるという原因の一つでもあると考えられるのである」62という声も聞かれた。

このような「免税事業者からの仕入れについても、課税事業者における仕入税額控除の対象となる」現状について、「消費課税理論上、説明できない重大な例外を認めていることで、このような「二分論」に基づく消費税の課税システムが十分には機能しておらず、経済的側面のみならず。課税理論的な側面においても、制度上の重大な欠陥が黙認されている状況にある」63という問題についても、後の章で改めて考察してきたい。

  • 49 金井恵美子「基準期間において免税事業者である者については、基準期間の課税売上高の算定上免除された消費税相当額は控除できないとされた事例」 税務事例436号(2006年1月)20頁
  • 50 基通第1条第4項第5項 (基準期間が免税事業者であった場合の課税売上高) 基準期間である課税期間において免税事業者であった事業者が、当該基準期間である課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等については消費税等が課されていない。したがって、その事業者の基準期間における課税売上高の算定に当たっては、免税事業者であった基準期間である課税期間中に当該事業者が国内において行った課税資産の譲渡等に伴って収受し、又は収受すべき金銭等の全額が当該事業者のその基準期間における課税売上高となることに留意する。
  • 51 「このような新取扱いを本件に遡って適用することは、信義則に違反し、違法・無効である」とする主張する論者もいる。 北野弘久『税法問題事例研究』 勁草書房(2005年9月)402頁
  • 52 森英明「時の判例」ジュリスト1303号 有斐閣(2005年12月)144頁
  • 53 田中治「消費税をめぐる判例動向とその問題点」 税法学第557号(2007年5月)231頁
  • 54 森下幹夫「消費税法における納税義務者に関する一考察」 岡山大学経済学会雑誌48巻2号(2016年11月)141頁
  • 55 菅納敏恭「免税事業者の基準期間における課税売上高の計算-張江訴訟」税研148号 日本税務研究センター(2009年11月)174頁
  • 56 湖東京至『消費税法の研究』 信山社出版(1999)120~121頁
  • 57 湖東京至 前掲(注)56 118~119頁
  • 58 平成16年4月1日以後開始する課税期間から、事業者免税点は3000万円→1000万円に引き下げられた。
  • 59 多田雄司「事業者免税点の判例からみた消費税の本質」 税務弘報53巻6号(2005年6月)148頁
  • 60 税率10%時代では、仮に1000万円に若干満たない売上の事業者が免税事業者であったとした場合(仕入税額控除が殆どない業種を想定)、90万円近い益税が生じる可能性があり、看過できない金額になると思われる。
  • 61 橋本守次「消費税の免税点の判断に係る判例の検討」 税務弘報55巻6号(2007年6月)146頁 三木義一「免税事業者の基準期間における課税売上高の意義」 税務QA 37号(2005年4月)44頁
  • 62 三浦道隆『消費税法の解釈と実務(増補改訂版)』 大蔵財務協会(2006年7月)172~173頁
  • 63 森下幹夫 前掲(注)54 141~142頁

第2節 ダミー会社を利用した事業者免税点制度の悪用

第1項 裁判の内容

名古屋地方裁判所 平成21年11月5日判決64

【事案の概要】

本件は、衛生用陶磁器の製造及び販売等を業として行う原告の代表者が、別会社を複数設立し、原告が取引先から請け負った業務をその別会社に外注委託し、原告が取引先から請負代金の支払を受けると、原告の取り分を差し引いて、残りを別会社名義の預金口座に送金するという経理処理を行うことで、原告は、仕入税額控除として、別会社の外注加工費に係る消費税額が控除されることになり、別会社に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)は、新たに設立された法人65の事業者免税点制度により、すべて免除されるという方法により、順次、ある別会社の設立後2度目の決算期を迎えた後は、別の別会社を新たに設立し、その会社に外注委託するという処理を繰り返していたが、平成12年10月1日から平成17年9月30日までの各課税期間に係る消費税等について平成18年12月4日、修正申告66したところ、処分行政庁から平成19年3月27日付で重加算税の賦課決定を受けたことから、これらの賦課決定の取消しを求める事案である。

【原告の主張】

1.原告代表者(以下、Xとする)は顧問税理士に、消費税の節税方法について相談し、顧問税理士は、原告の業務の一部を分離して別会社を作り簡易課税制度を利用することを検討し、名古屋国税局税務相談室に赴いて相談し、同相談室の職員から、[1]新たに別会社を作って原告の外注委託先とするのであれば、別会社を法人として設立登記しなければならないこと、[2]原告の従業員を別会社に移して請負業務に従事させるのであれば、原告の従業員を退職させ、別会社で雇用しなおさなければならないこと、[3]従業員の給与は別会社から支払わなければならず、源泉徴収簿も別会社できちんと備える必要があること指摘され、[4]新しく設立する別会社の経理事務を原告の経理担当者が行っても問題はないとの説明を受けたため、上記指摘や説明を守って、営業していたものである。

2.平成15年5月、原告は半田税務署の税務調査を受け、実態を包み隠さず関係資料を全て提出し、調査に応じたところ、同職員から、税務上の問題点は指摘されなかった。調査に赴いた半田税務署の職員は、本件税務調査において、[1]別会社は実際には何らの業務もしておらず、別会社の代表者は単に名前を貸しただけであったこと[2]別会社に外注委託するようになった後も、請負業務はすべてXの指示の下で行われ、請負業務に係る売上げ、経費及び利益はXが一体的に管理していたこと、[3]外勤社員については、原告の名前で募集し、Xが採用を決定していたこと、[4]原告と別会社との間で、外注委託に関する契約や取決めはなかったこと、[5]原告の取り分の率をXが決めていたことの各事実を、認識し又は認識し得たものと認められるから、その上で同職員が税務上の問題点を指摘しなかった以上、原告としては、従前の納税方法が間違っていなかったと理解することは当然である。

3.以上のとおり、原告は、本件各賦課決定を受けた本件各課税期間の消費税等に関しては、本件税務相談の際に受けた説明に従って納税したものであり、また、平成15年5月の本件税務調査において「問題なし」との回答を得ているのであって、このような客観的事情が存する本件においては、原告が本件各確定申告において課税標準額に対する消費税額から本件外注加工費に係る消費税額を計算したことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該当すると考えられる。

したがって、本件は、その全額について、国税通則法65条4項所定の「正当な理由」67があると認められるから、そもそも過少申告加算税の賦課要件を満たしておらず、本件各賦課決定の全額が取り消されるべきである。

また、仮に「正当な理由」が認められず過少申告加算税の賦課要件が認められるとしても、原告の申告行為には、隠ぺい及び仮装が存在しないため、重加算税の賦課要件は認められず、少なくとも重加算税の賦課に相当する部分は取り消されるべきである。

【裁判所の判断】

請求棄却

1.Xは、平成10年3月3日、3社の別会社を設立し、資本金はそれぞれ300万円とした。

2.Xは、同資本金に充てるため、原告の預金口座から300万円ずつ出金し、Xの預金口座を経由して各別会社名義の預金口座に振り込んだが、同別会社3社の設立後、別会社の預金口座から295万円ずつ出金し、Xの預金口座を経由して原告の預金口座に戻した。また、3社の取締役には、Xの内妻(以下、Yとする)、Yの父・母が就任した。

3.Xは、別会社が2度目の決算期を迎える前には、このまま消費税を支払わないで済ませたいと思い、更に別会社を作って従前の別会社への外注加工費を付け替えることにより、消費税等を免れようと考えた。新たな別会社の資本金は、前期2と同様に、原告の預金口座から300万円を出金した上で、最終的には原告の口座に戻した。また、新たな別会社の取締役には、Yの叔母が就任した。

4.Xはその後も同様にして、順次、ある別会社の設立後2度目の決算期を迎えた後は、別会社を設立し、その会社に外注委託するという処理を繰り返し、別会社に係る消費税等はすべて免除されるという処理をしてきた。

また、別会社の取締役は、Yの親族や親族の知人に名前を貸してもらったものであった。

5.別会社の経営実態等は次のとおりである。

①別会社の資本金

各別会社の資本金は、実際には、原告等の資金が原資になっており、しかもほとんどの別会社はその設立後に資本金の大部分を再び出捐者に返金していた。

②別会社の代表者

各別会社の代表者は、すべて、X又はYの親戚あるいはその親戚の知人であり、XはYの父と母に対しては、2人で月額20万円を支払っており、別会社のそれ以外の取締役に対しては、月額5万円を支払っていた。

③別会社の本店所在地

各別会社の本店所在地は、別会社の代表者の自宅としていたが、各自宅には、実際には別会社の事務所はなかった。

④従業員の転籍

Xは、原告の外勤社員を取引先ごとに別会社に割り当てて転籍させ、それぞれの割当先から給与を支払うこととした。

⑤別会社の経営判断等

別会社の実質的な経営者はXであり、請負業務はすべてXの指示の下で行われ、請負業務に係る売上げ、経費及び利益はXが一体的に管理していた。

外勤社員の採用や給与、経理処理等の事務は、すべてXの指示のもとにYをはじめとする内勤社員が行っていた。別会社の帳簿、通帳、社印やゴム印など別会社に関するものはすべて原告が保管し、Yが経理担当社員としてこれを使用していた。

⑥取引先からの売り上げの分配

取引先からの売上げの原告と別会社の取り分については、売上金額にXが決めてYに伝えた一定の取り分率を乗じた金額を原告の取り分とし、その残りを別会社に対し外注加工費として支払い、別会社の売上げとすることとしていた。

Xは、この原告の取り分率については、別会社から支出する経費と原告の利益状況とのバランスを考慮して、0.095あるいは0.1といったように何度か取り分率を変更していた。

⑦原告と別会社との間の契約等

Xは、別会社についても実質的な経営者であったから、原告と別会社との間の取引内容はXの一存で決定されており、別会社がそれぞれ発行するはずの原告に対する外注加工費の請求書は作成されていなかった。

6.Xは、本件税務調査の際に半田税務署の職員から原告と別会社の取り分率を決める基準につき質問を受けたことから、本件税務調査後は、顧問税理士の指導に基づき、帳簿上、取り分率を0.12と引き下げて統一することとし、その後もこれを変更しないこととした。

もっとも、原告の取り分率が下がり、原告の経費を支払うのが困難になったことから、原告から別会社への送金は、帳簿上の外注加工費の計上額とは関係なく、別会社からの経費の支払の必要に応じて、適宜送金していたため、外注加工費の計上状況と実際の送金状況とが大きくかけ離れることとなった。

7.前記1~6のとおり、原告ないしXは、何ら実体のない別会社を次々に設立し、これら別会社に原告の従業員を転籍させたように装い、また、別会社との取引が正当なものであるかのように架空の業務委託契約書を作成するなどして、原告の請負業務を別会社に外注委託したかのような事実を作出し、別会社に対する本件外注加工費の支払があったかのごとく仮装した経理処理を行っていたのであって、これらの行為は、国税通則法68条1項にいう「隠ぺい」又は「仮装」に当たるものと認められる。

したがって、原告の主張には、理由がない。

  • 64 TKC法律情報データベース『LEX/DBインターネット』文献番号25500806 株式会社TKC HP
  • 65原文では「新設法人」とされていたが、本論文では、法第12条の2第1項における新設法人(基準期間がない事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人)と区別するため、「新たに設立された法人」とした。
  • 66原告は平成18年8月1日、名古屋国税局による査察調査を受け摘発された。
  • 67「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう。(最高裁判決 平成18年10月24日 民集60巻8号3128頁)

第2項 本事例の問題点

上記の判決から明らかなように、事業者免税点制度は、消費税等の租税回避の手段として悪用されやすい[68]という側面をもっている。今回の事例では、原告は別法人を設立し、その別法人が2度目の決算期を迎える前に、別の新たな別法人を設立し、その新たに設立された別法人の納税義務の免除を利用して、別法人の免税期間を延ばし続ける方法が取られたが、この方法を封じる規定が現在の消費税法には欠けていると思われる。

 今後も同様のスキームが用いられる可能性は、消費税率が上がっていく時勢の中で、ますます高まるものと予想される。そのスキームを未然に封じるために、消費税法の更なる制度改正が必要となるように思われる。本論文において、その改正案について、この後に論を展開していくことにする。


[68] 国税庁による消費税の査察調査状況において、平成18年度から22年度までの間に検察庁に告発した件数は102件で、このうち58件は、資本金1000万円未満の新たに設立された法人が設立2年以内の事業者免税点制度を悪用し、法人の設立や解散を繰り返すなどして消費税を免れている事例とされている。

 会計検査院「消費税の課税期間に係る基準期間がない法人の納税義務の免除について」 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書(要旨) (2011年10月)5頁

第3節 基準期間の意義について

第1項 裁判の内容

鳥取地方裁判所 平成12年5月16日判決[69]

【事案の概要】

 本件は、ビジネスホテルの経営や管理等を業として営む原告が、平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度を課税期間とする消費税について、課税売上高を2840万円余として確定申告(基準期間における課税売上高は、3864万円余)した後、同年6月25日、本件事業年度を課税期間とする消費税について、法9条1項によって納税義務が免除されるべきであるとして行った更正の請求に対して、被告(倉吉税務署長)がなした更正すべき理由がない旨の通知は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

【原告の主張】

1.被告は、法人たる事業者の消費税の納税義務が免除されるか否かは、基準期間である前々事業年度の課税売上高が3000万円以下であるか否かによって決定されるとの解釈を前提にしているが、この解釈を前提とした場合、例えば、ある事業者の課税期間の課税売上高が3億円であっても、基準期間である前々事業年度の課税売上高が3000万円以下であれば、右課税期間に係る消費税については、納税が免除されることになる。

 しかし、現実には、一般的な事業者は、消費税の納税義務が免除されない場合には取引相手から消費税を徴収して、免除される場合には消費税を徴収しない、というようなことはしておらず、また、現状としても、消費税法施行以来現在に至るまで、免税事業者は、消費税を徴収して納税せず自分のポケットに入れているのであるから、右の例であれば、その事業者は、3億円の5%にあたる1500万円を取引相手から預かるが、その預り金を納税せずに収益金としてしまうことになる。このようなことが適正であるとされるならば、納税者の理解と納得は得られない。

2.被告は、法9条1項は、納税事務の負担や税務執行面に対する配慮から規定されたものであり、消費税を適正に転嫁することができるようにするために、基準期間である前々事業年度の課税売上高から、課税期間である事業年度の当初の取引から消費税を上乗せした金額をその取引相手から請求するべきか否かの判断を容易にさせて、取引の円滑化を図ったものであると主張するが、前記のとおりの現状からすれば、適正な転嫁という被告の主張は説得力がない。

3.原告は、ホテル開業以来、消費税をホテル利用者に転嫁せず、徴収していないのであるから、本税を課税されることは承服できない。それなのに、一律に課税が可能であるとの被告の解釈は、消費税の基本的な趣旨に反し、全納税者及びすべての事業者の常識ともなっている3000万円以下の売上高の事業者は免税されるとの社会通念に反し、消費税法が制定された立法目的に著しく逸脱したものであって容認できない。

【裁判所の判断】

請求棄却

1.消費税法は、「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法により、消費税を納める義務がある」(法5条1項)と定めるとともに、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3000万円以下である者については、同法に別段の定めがある場合を除いて、同法5条1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する(法9条1項)としている。そして、同法において、課税期間とは、法人については、事業年度(法19条1項2号)であるとし、基準期間とは、法人については、その事業年度の前々事業年度(法2条1項4号)であるとしている。

2.よって、本件は同法に規定する別段の定めがない場合に該当すると解され、法9条1項によって消費税の納税義務が免除されるためには、本事業年度の前々事業年度である平成7年事業年度における課税売上高が3000万円以下であることが必要であり、原告の平成7年事業年度における課税売上高は、前述のとおり、3000万円以下ではないのであるから、法9条1項によって納税義務を免除されるための要件を充足していないことは明らかである。

 したがって、原告の主張には、理由がない。


[69] TKC法律情報データベース『LEX/DBインターネット』文献番号28090261 株式会社TKC HP

第2項 本事例の問題点

本事例では、原告が主張するように、法9条1項が消費税法の「基本的な趣旨や社会通念に反し、同法の立法目的を著しく逸脱したもの」とは考えられず、主張内容に「無理があり、判決内容は当然[70]」とする岩﨑教授の指摘が正しいと思われる。

 また、原告が主張するように「課税売上高が3000万円以下であるか否かを、課税期間における課税売上高で判定することとなると、当該課税期間が終了するまで、納税義務が免除されるかどうか判明せず、消費者に消費税を転嫁すべきか否かの経営方針、消費税課税事業者を選択すべきか否か、簡易課税を選択すべきか否か、等々の判断がすべて後手にまわり、返って不合理な結果になることは明らかといえる[71]」とする実務的な視点も重要である。

 他方で、原告が主張する「ある事業者の課税期間の課税売上高が3億円であっても、基準期間の課税売上高が3000万円以下であれば、納税義務は免除され、3億円の5%にあたる150万円が納税されず収益金となることには、納税者の理解と納得は得られない」という見解には、一考に値する部分も少なくはない。

 それは、資本金が1000万円以上の法人であれば、「現行消費税法によれば(中略)、第1期は課税売上高が300万円であるが課税事業者、第2期も課税売上高が800万円であるが課税事業者、第3期は当該課税期間の課税売上高は4000万円であるが、基準期間の課税売上高が300万円であるので免税事業者、第4期も当該課税期間の課税売上高は1億円であるが、基準期間の課税売上高が800万円であるので免税事業者となり、課税期間における不公平性が存在[72]」していることによると思われる。この基準期間の問題は、改めて第4章で掘り下げることにする。

 


[70] 岩﨑健久「消費税法の免税点制度に関する判例研究」 帝京経済学研究 第38巻第1号(2004年12月)176~179頁

[71] 三浦道隆 前掲(注)62 148頁

[72] 岩﨑健久 前掲(注)70 178頁