第6章 法改正における問題点

第1節 新設法人の納税義務の免除の特例

1.平成6年の改正の法12条の2「新設法人の納税義務の免除の特例」は、「免除の特例」と文字通りに読むと「納税義務」が「免除」されるものの特例規定と思われるが、実際には、「免除」が特例により「原則」にもどって「納税義務は免除されない」という結論にいたる規定である。また、「新設法人」という言葉が、新しく作られた法人という一般的な意味ではなく、あくまで「その事業年度の基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1000万円以上である法人」を指す用語として、用いられる点[197]にも誤解が生じやすく、実務上、混乱が生じやすい点である。このような誤解が生まれる規定は、見直すべきではないだろうか。

2.また、本改正は、第2章第3節でみた通り、平成18年の会社法の施行により、資本金1000万円未満の株式会社を作ることが可能になったことから、やや実効性が薄れてしまっていた。また、その内情が、平成23年の会計検査院の指摘[198]により明らかになり、また同検査では、このケースの他にも、個人事業者として相当の規模がある者が法人成りしたケースや、免税点制度を2年間利用したあとに増資を行って資本金を1000万円以上に増資した法人のケース、または、免税点制度の適用を受けた後に法人を解散させた場合と4つのケースを紹介し、事業者免税点制度が消費税逃れとして利用されている状況[199]を浮彫りにしている。

3.法人成りの問題点は、個人事業者が、法人化する段階で事業は既に軌道に乗っており、小規模事業者でない可能性が高いにもかかわらず、新法人に事業者免税点制度が適用されてしまう点にある。そもそも本制度の趣旨から考えれば、課税事業者である個人事業者が法人成りするのであれば、なおさら、法人成りしたことで消費税に関する新たな「事務負担」は発生するのか、という点に疑問符がつく。逆に、課税事業者である個人事業者が法人成りした場合に、事業の実態に何ら違いがないとすれば、免税事業者となることの方が不自然ではないだろうか。この点、依田教授は、法人成りの問題点として、「組織変更前の属性を組織変更後の組織が引き継ぐべきであるという観点[200]から考えると、個人事業者の法人成りの場合にも、個人事業と新規設立法人とは密接に関連していることから、個人事業者が課税事業者であったときには、その属性を新規設立法人が引き継ぐべきではないか[201]」と指摘されている。

ところが、この点について、基通1-4-6(新規開業等した場合の納税義務の免除)の注書きにおいて「個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高とはならないのであるから留意する」として、通達において明確に定められている。なお、「確かに事業自体についてみれば、個人営業時代と法人成り後を通じて事実上の継続性は顕著であるとしても、法律的には別人格であるから、合算しないのは当然であり、通達は、これを念のため明らかにしたものである[202]」といった解説も見受けられるが、一般的な事業者は「合算しないのは当然」とは考えていないからこそ、同趣旨の問い合わせが課税庁に相当件数あり、そのために、通達において、同解釈を発するに至った、というのが実情ではないかと筆者は推測している。

4.実務家としての筆者は、個人事業主から事業を開始し、2年間の免除期間を経た上に、法人成りし、更に2年間の免税期間を得ることで、合計4年間にも及ぶ免税期間を享受する事業者を、数多く見聞きしている上に、もっと言えば、4年間の免税メリットを享受した上で、さらに、個人成りをして免税期間を延ばすことができるか、別法人を設立して、免税期間を延ばすことができるかという質問を顧問先の顧客から、受けたこともあるほどである。

 事業者が合法的な手法で、免税メリットを享受し、事業を優位に展開しようとすること自体は、否定されるべきものではないと筆者は考えるが、上記のように、事業者が免税メリットに依存し、常識の範囲を超えた節税を図ろうとするような状況は、健全な状況とは言い難いと思われる。


[197] 一般的な意味での「新設法人」は、消費税法では「新規設立法人」という用語が当てられている。

[198] 平成18年中に資本金1000万円未満で新たに設立された1283法人のうち、第1期事業年度の売上高が1000万円を超え、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けて、第3期課税期間においての納付消費税額を申告している343法人を抽出した1社平均売上高の状況は、第1期事業年度が6400万円、第2期事業年度が10400万円と高額であるにもかかわらず、免税事業者となっている状況が明らかになった。 会計検査院 前掲(注)68 2頁

[199] 会計検査院 前掲(注)68 2~5頁

[200] 法第11条(合併があった場合の納税義務の免除の特例)、法第12条(分割等があった場合の納税義務の免除の特例)は、そういった観点から創設された規定であると思われる。

[201] 依田俊伸「小規模事業者に係る納税義務の免除の特例制度について」 租税実務研究第5号 租税実務研究学会(2015年12月)49頁

[202] 武田昌輔監修 前掲(注)1 1613頁

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