第2節 わが国との比較

1.翻って、わが国では、事業者免税点制度が特例的に捉えられているかというと、前項に見たように免税事業者の割合が、事業者数全体の6割を超える状況[185]であることから、「『特例』として捉えられている様子はなく、また、納税者にとって『益税』の性質が『隠れた補助金』に相当するような感覚はないように思われる[186]」と山田教授は分析している。

 しかしながら、わが国においても、事業者免税点制度は特例措置であることは諸外国と変わりのないことであり、「消費税率が引き上げられれば益税額も大きくなり、消費者の不信感も高まるであろう(中略)ことなどを踏まえれば、免税点の水準を現行の1000万円から大多数の諸外国並みに引き下げることも考えられるのでないだろうか[187]」と山田教授は指摘している。この指摘の通り、わが国も税率が10%となり、益税の額が大きくなりつつある中で、改めて、益税の規制について考えるべき時が来ていると思われる。

2.次に、表4を時系列の流れで見ていくと、免税点の推移について気付くことは、2008年と2018年の免税点と数字を比較[188]すると10年間で免税点を下げた国は、オランダとラトビアの僅か2カ国にとどまり、免税点を維持した国は、ノルウェー、ドイツなどの9ヵ国となり、免税点を上げた国は、フランス、イギリスなどの18ヵ国に及ぶことである。殊に、フランス[189]、スイス[190]、イギリス[191]といった、わが国より高い免税点を持つ国が軒並み上げる方向で、改正を行っている点は注目に値する。

 これは、先に見た増井教授が紹介した「小魚を追うのではなく、大きな鯨を追うべきである[192]」という欧州のVAT通念の変化に対応するものであると思われる。

しかし、注意しなければならないのは、「これらの3か国は、いずれも免税事業者になるかどうかの判定基準として当期の課税売上高をも加味しており、過去の実績のみで判断する我が国とは異なり、『免税』という特典を享受することができる『小規模事業者』の範囲を厳格に捉えた仕組みとなっている[193]」という点である。この点はつまり、第4章で確認した通り、免税メリットがこれらの3カ国では1年間しかない、ということを意味している、ということでもある。


[185] 前掲(注)145 参照

[186] 山田晃央 前掲(注)8 80頁

[187] 山田晃央 前掲(注)76 80頁

 ただし、「適格請求書発行事業者登録の申請受付は平成33年(原文ママ)10月1日からスタートするが、インボイスの導入までに、多くの免税事業者が課税事業者になることを選択するようであれば、免税点を引き下げる意味あいは薄くなる」と補足されている。

[188] 2008年にOECD未加盟の国は、その後の年で比較。通貨が変わっているスロバキアは除外。

[189] フランスの付加価値税は、1968年から導入された。フランスの間接税は、1917年にまで遡ることができ、以後の1968年の付加価値税導入まで「50年間かけてみがき上げて」きており、「フランスの例、フランスの経験が基礎になっていわば付加価値税の欧州モデルともいうべきものができたという経緯」があるという。

P.ルビロア「フランスの付加価値税制度について」 租税研究273号 日本租税研究協会(1972年7月) 2~3頁(筆者注:P.ルビロア氏は、昭和47年当時のフランス主税局長)

[190] スイスは、1995年の税制改革において従来の売上税からEU方式に準拠した付加価値税に転換した。スイスは税率が8%とEU諸国と比べるとかなり低く、わが国の制度に近似する点も少なくない。

[191] イギリスの免税点は物価上昇に見合うように毎年免税水準を引き上げる措置が取られている。湖東京至 前掲(注)56 12頁

[192] 本稿79頁参照

[193] 山田晃央 前掲(注)8 80頁