1.消費税導入直後の平成元年6月、政府税制調査会に「実施状況フォローアップ小委員会」が設置され、関係各省庁、消費者団体、事業者団体等から消費税の考え方を含めその実施状況のヒアリングが行われた。同時期に開催中の第116回国会において、野党4会派提出による消費税廃止関連4法案の審議が行われるなど、消費税を巡る議論が高まる中において、同年11月に「中間報告」が提出された。
報告の中で、見直しのポイントとして事業者免税点制度・簡易課税制度・限界控除制度の3点22が挙げられ、事業者免税点制度については、「現在、特に消費者の間で疑問をもたれている事業者免税点制度については、免税事業者の売上高の総額は全事業者の売上高の総額の約3%に止まること、免税事業者は現実には他の事業者に比べれば値上げ率が低く、また、仮に3%の値上げを行った場合でもその利得分は極めて軽微であり、さらにそこに所得課税が行われること」に加えて「免税事業者が納税義務者に加わることになれば国税職員の大幅な増員が必要になること等にも留意する必要がある23」として、見直し論に対して、「検討の前提として各種の客観的なデータを必要とするものや定着の度合いと不可分に関わる問題等もあることから、短期的観点と中・長期的観点に分けて議論を行うべき」として、導入後早急に高まった見直し論に対し、ブレーキをかけている。
確かに、免税事業者の総売上高が全売上高のわずか3%と考えれば、税収の全体としてみると「軽微」と見える上に、更に国税職員の大幅な増員という徴税コストがかかるとなれば、課税庁側の視点に立つと、黙認すべき状況とも考えられる。ただし、消費者の視点で考えた場合、事業者の65.7%が免税事業者である状況を「利得分は極めて軽微」として黙認して済む問題とは言い切れないのでないだろうか。
2.その後も、見直しについての議論は継続し、平成5年11月、税制調査会による「今後の税制のあり方についての答申」が取りまとめられ、事業者免税点制度については「基本的には、事務処理能力及び転嫁の実現可能性を踏まえつつ、制度に対する理解・習熟に伴い相対的に規模の大きい免税事業者には課税事業者としての対応を求めていく方向で検討を行うことが適当である24」との提言がなされ、大規模事業者については、免税点制度の対象外とする方向性が示された。これを受けて、事業者免税点制度は「基準期間の課税売上高3000万円以下という基準自体は、原則として維持されたが、売上規模の大きな新設法人の消費税負担を適正化するため、資本または出資の金額が1000万円以上の新設法人については、設立当初の2年間は、納税義務を免除しない25ことに改めら(平成9年4月1日以後新設の法人に適用)26」ることになった。
当改正により、規模の大きな法人が新設された場合において、事業者免税点制度の適用対象外となる規定が整備された。その効果については、次節で検討を行いたい。
- 22 益税の問題を考えるうえで、免税点制度と簡易課税制度、限界控除制度(いわゆる「3点セット」)は多くの論者が同時に分析されており、その重要性はいずれも劣らないと筆者は考えるが、本論考では、事業者免税点制度に焦点を当てているため、簡易課税制度・限界控除制度については極力言及しない方針である。
- 23 尾崎護『消費税法詳解(改訂版)』 税務経理協会(1991年11月)66頁
- 24 税制調査会「今後の税制のあり方についての答申-『公正で活力ある高齢化社会』を目指して-」(1993年11月)32頁
- 25 法第12の2(新設法人の納税義務の免除の特例)第1項 その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額1000万円以上である法人(「新設法人」という)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第9条第1項本文の規定は、適用しない。
- 26 岩﨑政明「消費税の特例計算方法-中小事業者に係る特例措置-」日税研論集30号 日本税務研究センター(1995年3月)302頁