1.表4は、OECDにより公表されている資料[174]を基に、筆者が作成した。過去10年間のOECD各国の自国通貨による免税点の推移と、直近の2018年度現在の邦貨換算[175]された免税点を一つにまとめている。
注意点として、「国によって貨幣価値や物価の違いもあるので、免税点の米ドル換算[176]で単純な比較はできない[177]」と西山教授は指摘されており、また、例えばオランダにおいては「売上ではなく納付税額を基準とする[178]」というように各国の細かな税制上の注意点[179]もあるが、ここでは、一般的な免税点[180]について取り上げることにする。
2.まず、初めに気が付くところでは、OECD加盟35カ国[181]中、わが国の免税点1000万円を上回る水準の国は、フランス、スイス、イギリスの3カ国を数えるのみ、ということである。また、オランダ、ドイツをはじめとする21カ国が、わが国の免税点の半分以下である500万円以下の水準で大勢を占めており、更にはスペイン、チリ、メキシコ、トルコの4ヵ国は免税点を有していない。
このように多くの国が、免税点を低い水準に設定している状況について、岩崎教授は「EU付加価値税制の下では、納税義務の免除制度の性質は、本来国庫に収納されるべき租税を事業者が取得することを合法化するものであって、この意味で、当該税額分の金銭の性質は国家から事業者に交付される『隠れた補助金』に相当し、あくまで特例的なものと解されている。それゆえ、事業者免税点は、専ら零細事業者に限って認められる給付行政的措置として、極めて低く設定されていることが多い[182]」と分析し、事業者免税点制度は極めて特例的な措置として捉えられていることが、低い免税点の背景にあることを指摘している。
また、西山教授は「付加価値税システムが税額転嫁と仕入税額控除によって機能していることを考えれば、小規模事業者に対する免税制度はシステム破壊ともいえる。このためスペインおよびイタリアは、この免税点制度を採用していない[183]」とする海外識者の意見を紹介し、「免税点制度は、租税平等主義に抵触する制度であり、しかし実行可能性の考慮から容認されている暫定的かつ特例的措置であるという認識が不可欠であろう[184]」と結論付けている。
[174] OECD 「Consumption Tax Trends」OECD Publishing 2008(50頁),2011(77~78頁),2012(84頁),2014(66頁),2016(89頁),2018(83頁) General threshold(一般的な免税点)の数字を用いた。
[175] 邦貨換算レートは、裁定外国為替相場(2018年12月適用)及び市場実勢相場等による。端数は、四捨五入している。
[176] 西山教授は、米ドル換算していた。本稿の表では邦貨換算を採用している。
[177] 西山由美「中小企業と消費課税(Ⅱ)-今後の小規模事業者制度と簡易課税制度-」 税理VOL.57No.9(2014年7月)131頁
[178] 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 天野史子『欧州付加価値税ハンドブック27カ国のVAT税制と実務問題』中央経済社(2009年9月)69頁
[179] OECD 「Consumption Tax Trends 2018」であれば、84
~87頁にわたり、各国ごとの詳細な注(country notes)がついている。
[180] 業種別に異なった免税点を採用している国は、ドイツ、フランスをはじめとして、12ヵ国見受けられた(2018年)。
[181] 加盟国中、アメリカだけは消費税(付加価値税)を導入していない。
[182] 岩﨑政明 前掲(注)26 322頁
[183] 西山由美 前掲(注)111 717頁
(筆者注)その後、イタリアは事業者免税点制度を導入している。
[184] 西山由美 前掲(注)111 729頁