鎌倉氏によると、諸外国においても、「中小事業者に対しては、事業者の納税協力費や徴税費を軽減する観点から、一定規模以下の事業者に納税義務を免除する事業者免税点制度が、多くの国で設けられている[156]」という。以下、主要国の中小事業者に対する課税特例措置について、鎌倉氏の論文[157]を元に確認していくことにする(下線筆者)。
①イギリス
直近12か月間の課税売上高が8万5000ポンド[158](1190万円)以下の事業者又は今後12か月間の課税売上見込高が8万3000ポンド(1162万円)以下の事業者
②ドイツ
前暦年の総課税売上高が1万7500ユーロ(206.5万円)以下かつ当暦年の総課税売上見込高が5万ユーロ(590万円)以下の者
③フランス[159]
物品販売、宿泊施設業の場合、前暦年の売上高が8万2800ユーロ(997万円)以下かつ当暦年の売上高が9万1000ユーロ(1073.8万円)以下の者
④スウェーデン
当課税年度の課税売上見込高が3万スウェーデン・クローネ(33万円)以下かつ直近2課税年度の課税売上高がいずれも3万スウェーデン・クローネ(33万円)以下の者
⑤デンマーク
年間課税売上高が5万デンマーク・クローネ(80万円)以下の者
⑥カナダ
連続する4四半期における国内外の課税売上高が3万カナダ・ドル(243万円)以下の小規模事業者
⑦オーストラリア
当月以前12か月の課税売上高及び当月以降12か月の課税売上見込高のいずれも7万5000オーストラリア・ドル(
547.5万円)未満の事業者
⑧ニュージーランド
直近12か月の売上高が6万ニュージーランド・ドル(408万円)未満かつ今後12か月の売上見込高が6万ニューランド・ドル(408万円)未満の事業者
⑨韓国
簡易課税制度の適用を受ける個人事業者のうち、課税期間中の売上高(税込)が2400万ウォン(200.6万円)未満の事業者
④のスウェーデンにおいては、直近2課税年度で判定していることから、わが国に類似する点を見ることもできるが、スウェーデンの場合は、その他にも当課税年度をも基準にしていることから、やはり根本的に異なっているように思われる。また、他国においては、「わが国のように2年も前の課税期間で判定する仕組みを採用している国は少なくともここで掲げた国ではなかった[160]」ことが明らかになった。
このような諸外国の状況を鑑みるに、日本だけが、2年も前の課税期間で判定していることに、違和感を覚えざるをえない。そして、基準期間と課税期間とのズレの2年間は、免税事業者が免税メリットを享受することができる期間でもある点は、見過ごすことができない事実である。また、わが国の免税点はイギリス、スイス、フランスについで高水準[161]であることも併せて考えると、わが国の小規模事業者の免税メリットが、主要国中で最も大きくなっていることを意味している。
このように諸外国との比較の中で考えていくと、わが国の小規模事業者への配慮は、いささか過剰なものと言わざるを得ないのが現状である。先にみたように、消費税導入時に、小規模事業者への配慮から事業者免税点制度が創設されたものであるが、消費税への理解と浸透は、導入から既に30年を経た現在、大きく進展しているものと思われる。そこで、諸外国のような当期の見込み売上高基準を検討する時期に来ているのではないだろうか。
この点につき、山田教授は、「EU諸国と我が国では、付加価値税又は消費税を課されることに対する国民の受け止め方が大きく異なっており、同じ条件で考えることができない[162]」として、注意を喚起している。では、EU諸国では、付加価値税の受け止め方は、どのようなものであろうか。
[156] 鎌倉治子「諸外国の付加価値税(2018年版)」国立国会図書館(2018年3月)14頁
[157] 鎌倉治子 前掲(注)156 17頁の表を参考にした。
[158] 為替レートは、1ポンド140円、1ユーロ118円、スウェーデン・クローネ11円、デンマーク・クローネ16円、カナダ・ドル81円、1オーストラリア・ドル73円、1ニュージーランド・ドル68円、1ウォン0.0836(2019年11月中適用の裁定外国為替相場)で計算した。
[159] サービス業の場合は、前暦年の売上高が3万3200ユーロ(398.4万円)以下、かつ当暦年の売上高が3万5200ユーロ(422.4万円)以下の者。
[160] 秋山高善 前掲(注)42 165頁
[161] 免税点の問題は、第5章において詳しく扱う。
[162] 山田晃央 前掲(注)8 74頁