事業者免税制度が設けられた趣旨について、財務省主税局は「消費一般に幅広く負担を求めるという消費税の課税の趣旨や産業経済に対する中立性の確保という観点からは、いわゆる免税事業者は極力設けないことが望ましい」としながら「原則としてすべての事業者が納税義務者となる消費税の導入は、我が国にとって初めての経験でもあり、小規模事業者の納税事務負担や税務執行面に配慮する必要がある。このような観点から、一定の事業規模以下の小規模事業者については、納税義務を免除することとする3。」と説明している。
極力設けないことが望ましいにも拘らず、設けざるを得なかった背景には、消費税導入時に「強い世論の反対の中で採用にこぎつけるために、高い免税点、限界控除制度、簡易課税制度等、中小企業の反対を緩和するための措置を採用せざるを得なかった4」時代背景があった。消費税導入時に世論の反対が多かった理由について、金子教授は、「従来のわが国の消費課税の制度が個別消費税の体系」であり、「取引高税の短い期間を除いては、一般消費税は存在したことがなかったという理由による」ものであり、「全くの新税だった5」ためと分析されている。これに対してヨーロッパは従来から売上税(取引高税)があり、この税は取引の各段階で税に対してさらに税が課されるというタックス・オン・タックスという問題が起こる好ましくない状況にあった中で、付加価値税は「一般売上税の改良型」であり「一種の改革立法」として問題を改革すべく登場したため、反対はそれほど起こらず、「むしろ賛成の意見が多かった」という。
その意味では、我が国にとって消費税の導入自体が「全くの新税」という「鞭」であったため、事業者免税点制度は「飴」の一つとして、必要悪であったと云えよう。ただし、「飴」として機能していたのは、小規模事業者に対してのみであり、「免税事業者に生じている益税6の額はそれほど大きいとはいえないが、高すぎる免税点が消費税に対する納税者の不信の一因となっていることは否定できない7」として、金子教授は「消費税制度をより透明なものとし、納税者の税制に対する信頼を高めるためには、長期的にはその引下げの努力を続けるべきであろう」と結論付けている。
では、3000万円という金額からスタートした事業者免税点制度であったが、その金額の根拠はどこにあったのか、次項において、導入前の消費税前史を遡ることで、辿っていくことにする。
- 3 大蔵省主税局税制第二課編『消費税法のすべて』大蔵省印刷局(1989年2月)18頁
- 4 金子宏「総論-消費税制度の基本的問題点-」日税研論集第30号 日本税務研究センター(1995年3月)3頁
- 5 金子宏「租税法の諸課題-わが国税制の課題と現状-」税大ジャーナル第1号 税務大学校(2005年4月)12~13頁
- 6 事業者免税点制度に関する益税の問題は、第3章で詳しく扱う。
- 7 金子宏 前掲(注)4 13頁