第6章 法改正における問題点

本章では、事業者免税点制度について行われた主な法改正について、改正後に生じた問題点を見ていくことにする。

 第1章第2節で確認した通り、事業者免税点制度の改正は、再三にわたって細かく行われている。特に平成23年度以降の改正は、内容が複雑化していることから、事業者や実務関係者等に混乱が生じているのが現状である。

 また、改正の方法[194]についてみていくと、消費税法は法5条により原則的に、「事業者が国内において行った課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務がある」と定めた上で、その例外として、法9条1項により小規模事業者には特例措置として、消費税を納める義務を免除する、という規定ぶりである。ところが、改正された部分は、この特例措置に「特例扱いをして資本金1000万円以上の法人を原則的な納税者に転じさせる、という非常に面倒な規定をしている[195]」状況である。その結果、特例(免税事業者)の特例で原則(課税事業者)に戻るという、複雑な規定[196]になっている。


[194] 平成15年度改正の免税点の引き下げの改正以外の改正について見ていくことにする。

[195] 鎌倉友一 前掲(注)115 35頁

[196] 本論で取り上げたものの他にも、法第10条(相続があった場合の納税義務の免除の特例)や法第11条(合併があった場合の納税義務の免除の特例)、法第12条(分割等があった場合の納税義務の免除の特例)といった多くの派生規定が存在する。

第1節 新設法人の納税義務の免除の特例

1.平成6年の改正の法12条の2「新設法人の納税義務の免除の特例」は、「免除の特例」と文字通りに読むと「納税義務」が「免除」されるものの特例規定と思われるが、実際には、「免除」が特例により「原則」にもどって「納税義務は免除されない」という結論にいたる規定である。また、「新設法人」という言葉が、新しく作られた法人という一般的な意味ではなく、あくまで「その事業年度の基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1000万円以上である法人」を指す用語として、用いられる点[197]にも誤解が生じやすく、実務上、混乱が生じやすい点である。このような誤解が生まれる規定は、見直すべきではないだろうか。

2.また、本改正は、第2章第3節でみた通り、平成18年の会社法の施行により、資本金1000万円未満の株式会社を作ることが可能になったことから、やや実効性が薄れてしまっていた。また、その内情が、平成23年の会計検査院の指摘[198]により明らかになり、また同検査では、このケースの他にも、個人事業者として相当の規模がある者が法人成りしたケースや、免税点制度を2年間利用したあとに増資を行って資本金を1000万円以上に増資した法人のケース、または、免税点制度の適用を受けた後に法人を解散させた場合と4つのケースを紹介し、事業者免税点制度が消費税逃れとして利用されている状況[199]を浮彫りにしている。

3.法人成りの問題点は、個人事業者が、法人化する段階で事業は既に軌道に乗っており、小規模事業者でない可能性が高いにもかかわらず、新法人に事業者免税点制度が適用されてしまう点にある。そもそも本制度の趣旨から考えれば、課税事業者である個人事業者が法人成りするのであれば、なおさら、法人成りしたことで消費税に関する新たな「事務負担」は発生するのか、という点に疑問符がつく。逆に、課税事業者である個人事業者が法人成りした場合に、事業の実態に何ら違いがないとすれば、免税事業者となることの方が不自然ではないだろうか。この点、依田教授は、法人成りの問題点として、「組織変更前の属性を組織変更後の組織が引き継ぐべきであるという観点[200]から考えると、個人事業者の法人成りの場合にも、個人事業と新規設立法人とは密接に関連していることから、個人事業者が課税事業者であったときには、その属性を新規設立法人が引き継ぐべきではないか[201]」と指摘されている。

ところが、この点について、基通1-4-6(新規開業等した場合の納税義務の免除)の注書きにおいて「個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高とはならないのであるから留意する」として、通達において明確に定められている。なお、「確かに事業自体についてみれば、個人営業時代と法人成り後を通じて事実上の継続性は顕著であるとしても、法律的には別人格であるから、合算しないのは当然であり、通達は、これを念のため明らかにしたものである[202]」といった解説も見受けられるが、一般的な事業者は「合算しないのは当然」とは考えていないからこそ、同趣旨の問い合わせが課税庁に相当件数あり、そのために、通達において、同解釈を発するに至った、というのが実情ではないかと筆者は推測している。

4.実務家としての筆者は、個人事業主から事業を開始し、2年間の免除期間を経た上に、法人成りし、更に2年間の免税期間を得ることで、合計4年間にも及ぶ免税期間を享受する事業者を、数多く見聞きしている上に、もっと言えば、4年間の免税メリットを享受した上で、さらに、個人成りをして免税期間を延ばすことができるか、別法人を設立して、免税期間を延ばすことができるかという質問を顧問先の顧客から、受けたこともあるほどである。

 事業者が合法的な手法で、免税メリットを享受し、事業を優位に展開しようとすること自体は、否定されるべきものではないと筆者は考えるが、上記のように、事業者が免税メリットに依存し、常識の範囲を超えた節税を図ろうとするような状況は、健全な状況とは言い難いと思われる。


[197] 一般的な意味での「新設法人」は、消費税法では「新規設立法人」という用語が当てられている。

[198] 平成18年中に資本金1000万円未満で新たに設立された1283法人のうち、第1期事業年度の売上高が1000万円を超え、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けて、第3期課税期間においての納付消費税額を申告している343法人を抽出した1社平均売上高の状況は、第1期事業年度が6400万円、第2期事業年度が10400万円と高額であるにもかかわらず、免税事業者となっている状況が明らかになった。 会計検査院 前掲(注)68 2頁

[199] 会計検査院 前掲(注)68 2~5頁

[200] 法第11条(合併があった場合の納税義務の免除の特例)、法第12条(分割等があった場合の納税義務の免除の特例)は、そういった観点から創設された規定であると思われる。

[201] 依田俊伸「小規模事業者に係る納税義務の免除の特例制度について」 租税実務研究第5号 租税実務研究学会(2015年12月)49頁

[202] 武田昌輔監修 前掲(注)1 1613頁

第2節 特定期間による納税義務の免除の特例

1.平成23年度改正では、「特定期間による納税義務の免除の特例」に関する法案が成立し、従来の基準期間による判定に加えて、特定期間[203]による判定が加えられたことにより、2年間のタイムラグが、1年間に狭まる点で評価することができる。また、この改正による増収額は、財務省によると、年間27億円[204]になることも評価できよう。その一方で、この改正は課税事業者になるのが早まっただけの改正であり、「課税の適正化」の趣旨と矛盾する内容であるとする説があることは前述した[205]

 この点で、中島税理士は「免税事業者の要件の見直しは、規制措置(免税事業者⇒課税事業者)と平仄を合わせるためには緩和措置(課税事業者⇒免税事業者)も必要」であるとして、課税売上高が「上半期で500万円以下の課税事業者に対する見直し(課税事業者⇒免税事業者)[206]」を提言している。

 この提言は、業績不振で資金繰りに苦しむ小規模事業者にとっての救いの声となるように思われる。仮に、事業者免税点制度に補助金的性質を認めるとするのであれば、このような事業者にこそ、適用されるべきである。ただし、「課税売上高が上半期で500万円」という基準は、売り上げの計上時期を遅らせる等の操作によって、調整可能であることから、新たな租税回避的なスキームを生む危険性をはらんでいる。解決策は、後に譲ることにして、本改正の問題点をもう一つ見ていく。

2.本改正により、新たに設立された法人の第1期における事業年度の月数が8カ月以上であれば、第2期目から消費税の納税義務は免除されないことになり、改正により益税解消の効果があったといえる。しかし、特定期間の例外規定として、前事業年度が短期事業年度[207]に該当する場合には、前々事業年度開始の日以後6月の期間を特定期間とすることとされている。この例外規定により、新たに設立された法人の第1期における事業年度を7月以下にすれば、「特定期間が存在しないことになり、改正前と同様に設立から2年間納税義務が免除され、益税解消の効果が少ないといえる(設立第1期の期間は7月以下に制限される効果はある)[208]」ものの、

上記の図[209]で確認できる通り、前事業年度は7カ月、その事業年度は12か月の免税メリットを享受することになり、このケースでは、最小でも1年7か月間は免税期間を取得できることから、新たに設立された法人に設立1期目は7か月間で決算期変更をすることをすすめる税理士サイトが散見される状況である。こうして、どんなに事業規模が大きい法人であっても、決算期変更をして、設立1期目を7か月間にするだけで、免税メリットを、改正後も最小でも1年7カ月間の免税期間を享受することができた。その結果、この改正の効果をそぐ抜け道になってしまった[210]

3.また、当改正では、課税売上高に変えて、人件費等により判定する方法が選択できること[211]になったことも注目に値する。その趣旨は「給与等の金額であれば、売上高との相関性が高く、また、事業者は所得税法により給与支払い明細書の交付義務があり(所法231①)、かつ、源泉徴収義務者は源泉所得税を毎月あるいは6月ごとに納付していること等から、その支払額を把握することが一般的に容易と考えられること等を踏まえ、事業者の事務負担に配慮する観点から設けられたもの[212]」とされている。

 選択適用とされたことにより、特定期間における課税売上高が優に1000万円を超える事業者であっても、特定期間における給与等の合計額が1000万円以下であれば、当規定が適用されないことになるため、多くの事業者は、この人件費基準を採用することで、本改正をすり抜けている。確かに給与等の金額は、「把握することは容易」ではあるものの売上高との相関性という点で、業種により異なるにせよ、給与等が売上高を上回ることはほぼ無いであろうし、むしろ実務家の筆者の感覚では、かなりの開きがあるように思われる。

この点について公表データを用いて試算を試みると、売上高に対する人件費の割合を売上高人件費率といい、財務総合政策研究所の数字によると、2015年度の全業種の売上高人件費率の平均値は、14%程度[213]であった。仮に半年間の人件費合計が1000万円の企業を想定し、そこから売上高を逆算すると、7000万円程度となり、年換算すると1億4000万円程度という金額になってしまう。つまり、事業者にとっては、売上高基準ではなく、人件費基準を採用した方が圧倒的に有利な結果になる、ということである。

このような事実があるために、免税点制度における対象者の引き締め効果を狙った筈の「改正の趣旨と合致していない[214]」とする声もあり、この批判は説得力があると思われる。

4.本改正は、特定期間という判定期間を設けたことで、より機動的に免税事業者の判定を行うことができるようになった点で、評価に値する。

その一方で、従来の免税点制度では、売上高基準で事業規模を判定してきたところに、本改正だけ、唐突に人件費基準との選択適用を認めてしまったこと、また、そのことにより改正の効果が削がれてしまったこと、短期事業年度という例外を設けてしまったために、2年間の免税メリットを1年間に圧縮するはずの規定が、1年7カ月の免税メリットに圧縮するだけの抜け道を残してしまったことをもって、本改正については、若干踏み込みが不足しており、「改正の目的を十分に果たすまでには至っていない[215]」という印象は否めない。


[203] 法第9条の2によると特定期間とは「個人事業者はその年の前年1月1日から6月30日までの期間」であり、法人は、「前事業年度(7月以下であるものその他一定のもの(『短期事業年度』という)を除く)開始の日以後6月の期間」

[204] 財務省HP 「平成23年度の税制改正(内国税関係)による増減収見込額」https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2011/23zougenshuu.htm 最終アクセス2020年1月13日

[205] 本稿24~25頁

[206] 中島孝一「消費税の改正とその影響」 税経通信VOL.66No.4(2011年3月)135~136頁

[207] 法第9条の2第4項 事業年度が7月以下であるもの等をいう。

[208] 中島孝一「新設法人に対する消費税の更なる規制措置の方向性」 Monthly Report No.38 ミクロ情報サービス(2012年3月)32頁

[209] 前掲(注)208の論文の図をもとに筆者が作成した。

[210] 仮に、短期事業年度といった制度を作るのであれば、7か月という決して短くはない期間ではなく、文字通りの短期で、3か月程度といった制度設計の方向性も考えられたのではないだろうか。

[211] 法第9条の2第3項

 第1項の規定を適用する場合においては、前項の規定にかかわらず、第1項の個人事業者又は法人が同項の特定期間中に支払った所得税法231条第1項(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)に規定する支払明細書に記載すべき同項の給与等の金額に相当するものとして財務省令では定めるものの合計額をもって、第1項の特定期間における課税売上高とすることができる。

[212] 斎須朋之他 前掲(注)28 647頁

[213] 財務総合政策研究所HP キーワードで見る法人企業統計より

https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/keyword_05.pdf

最終アクセス 2020年1月6日

[214] 秋山高善 前掲(注)42 164頁

[215] 矢頭正浩「特定新規設立法人の納税義務免除の特例(法12の3)」 税務弘報64巻12号(2016年11月)32頁

第3節 特定新規設立法人の納税義務の免除の特例

1.会計検査院からの指摘もあり、前回の改正から1年後、「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例」が施行された。 

本改正の概要は、法人が「特定新規設立法人」に該当する場合には、納税義務は免除されずに課税事業者になるという規定である。特定新規設立法人に該当する場合とは、新規設立法人[216]のうち、次の2要件を満たすものをいう。

①新設開始日[217]において特定要件[218]に該当すること

②特定要件の判定の基礎となった他の者及び当該他の者と一定の特殊な関係にある法人のうちいずれかの者のその新規設立法人の新設開始日の属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高として一定の金額が5億円を超えること

 

特定要件とは、「他の者」により新規設立法人が支配される場合を言い、この「他の者」とは「実質的に企業グループの中心となる者をいうのであるが、消費税法上は『ある特定の者』という意味に過ぎず、新規設立法人との関係を具体的に表現するものではない」という。その理由は、「本条が事業者免税点制度を利用した租税回避行為を封じるための規定であり、名義貸しや株式の分散保有の可能性を考えると、形式的に設立者、発起人と決めつけて表現することが適当でないため[219]」であるという。先の第2章第3節にみた人材派遣スキームを例にとると、ダミーの子会社を次々と設立した実質的な経営者である原告代表者Xが「他の者」に該当することになる。また、他の者により新規設立法人が支配される場合とは、下記注のいずれかに該当する場合[220]をいう。

法令25条の2の趣旨としては、「他の者」とその「特殊関係法人」が新規設立法人を支配する場合の説明であり、「他の者」と「特殊関係法人」の株式又は出資の持ち分の合計が50%超である場合に「支配」に該当することになる、ということである。また、法令25条の2第2項において、親族等の範囲[221]を定めており、内縁関係者や使用人なども含まれることとなった。

また、特殊関係法人とは、次の①から③に掲げる法人のうち、非支配特殊関係法人[222]以外の法人とする(法令25の3①)。

① 他の者が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

② 他の者及びこれと①に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

③ 他の者及びこれと①②に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

文章のみでは分かりづらいため、次頁にイメージ図[223]を付した。①は⑴のケースであり、②は⑵のケース、③は⑶のケースに対応し、⑷のケースは、甲と乙が同一生計の場合には丙社が特定新規設立法人に該当し、別生計の場合には、非特定新規設立法人となり、本規定には該当しない。

2.ダミー会社の人材派遣スキームは、子会社として新たに設立されたダミー会社が免税事業者である点を悪用した事例であったが、本改正により、「他の者」又は「特殊関係法人」が基準期間相当期間における課税売上高が、5億円を超えていれば、子会社であるダミー会社は課税事業者となり、スキームを無効化することができた。従来の納税義務の判定対象者はその事業者のみであったが、納税義務の判定対象者をグループ会社に拡張させることで、本改正は、効力を発揮した。その意味で、本改正によりダミー会社の人材派遣スキームにみたような親族間の名義貸しや社員等への株式の分散保有による租税回避スキームを排除することが可能になった点を評価することができる。

また、「解散した法人を判定の対象に含めたことが実務的である」とする声や「最も規制されるべき、数十億、数百億の売上を計上しながら1年7か月間免税であるという問題が、実務的に解決されたことになる[224]」といった声があり、「新設法人の免税期間を利用した租税回避スキームは基本的に防止されることになった[225]」という声もあり、本改正に対する各専門家の評価は、おおむね好評である。

3.その一方で、従来の基準期間における判定では、免税点が1000万円であるのに対し、本改正の基準期間相当期間における免税点[226]は5億円と従来基準の50倍の水準に設定された。これは、大規模事業者等(課税売上高が5億円を超える規模の法人が属するグループが)が50%超の持分を有する法人を設立した場合を想定したものと思われるが、5億円以下の課税売上高を持つ事業者[227]であれば、人材派遣スキームが有効となってしまう点が、筆者には気に掛かる。スキームを組む法人が大規模事業者等だけであるとは限らない[228]し、また、本改正は、大規模事業者等に対してだけスキームを排除する手当を施しただけであり、スキーム自体の根治につながっていない対症療法である、と言わざるを得ないためである。

また、「50%超の持分」という点で、50%以下に持分を抑えつつ、会社の支配関係を維持する(例えば、「他の者」に該当しない親しい知人の経営者同士で、株式を持合うといった方法)抜け道や、子会社を設立して、2年間休眠させて、「基準期間がない課税期間」から外れ、本規制の対象から外れる方法[229]なども、筆者を含め実務にたずさわる者の間で、抜け道として想定されており、これ以外にも様々な抜け道を提供してしまいそうである。


[216] その事業年度の基準期間がない法人(新設法人及び社会福祉法人を除く。)をいう。

[217] 基準期間がない事業年度開始の日をいう。

[218] 新規設立法人の発行済株式又は出資(自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の50%超が他の者により直接又は間接に保有される場合等であることをいう。

[219] 武田昌輔監修 前掲(注)1 1789の6頁

[220] 法施行令第25条の2 新規設立法人が支配される場合

⑴ 他の者が新規設立法人の発行済株式又は出資(自己株式を除く。以下、「発行済株式等」という)の総数又は総額の50%超の株式数又は出資を有する場合

⑵ 他の者及び次に掲げる者が新規設立法人の発行済株式等の総数又は総額の50%超の株式又は出資を有する場合

①他の者の親族等

②他の者(他の者が個人である場合には、他の者の親族等を含む)が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

③他の者及びこれと②に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

④他の者並びにこれと②及び③に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

⑶ 他の者及び⑵①~④までに掲げる者が、新規設立法人の議決権(行使することができない株主等が有する議決権等を除く。)の総数の50%超を超える数を有する場合

⑷ 他の者及び⑵①~④までに掲げる者が、新規設立法人の株主等(持分会社の社員に限る。)の過半数を占める場合

[221] ① 当該他の者の親族

② 当該他の者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

③ 当該他の者(個人の場合に限る。④において同じ。)の使用人

④ ①~③に掲げる者以外の者で当該他の者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの

⑤ ②~④に掲げる者と生計を一にするこれらの親族

[222] 非支配特殊関係法人の定義

非支配特殊関係法人とは、次の①から③に掲げる法人をいう(法施行令第25条の3第2項)

①他の者と生計を一にしない他の者の親族等(以下、「別生計親族等」という)が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

②別生計親族等及びこれと①に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

③別生計親族等及びこれと①②に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における他の法人

[223] 熊王征秀「特定新規設立法人の事業者免税点制度の不適用制度」T&A master No.528 新日本法規出版(2013年12月)87頁

[224] 芹澤光春『消費税 重要論点の実務解説』 大蔵財務協会(2018年11月)97頁

[225] 熊王征秀「平成23年度消費税改正の問題点を検証する」研究年報第7号 大原大学院大学研究年報編集員会(2013年3月)139頁

[226] 基準期間による判定と計算方法自体は変わらない。

[227] 人材派遣スキームを使うようなグループ会社をもつ事業者であれば、課税売上高をグループ会社に分散させて、5億円以下に調整するようなことは難しくない、と思われる。

[228] 本スキームを実行するためには、新法人を複数設立する際の登記費用や税務申告・相談費用がかかるため、一定規模の事業者でなければ、かけたコストに見合わないであろうという想定のもとで、大規模事業者等に対象を限定したと思われる。

[229] 「新設開始日において特定要件に該当すること」のうち、「新設開始日」を2年間の休眠により、回避するスキームである。

第4節 複雑化する改正

1.上記の3節を通じて、事業者免税点制度に加えられた主な改正について、時系列的に掘り下げてみた。本制度は、その他にも、「調整対象固定資産を取得した場合の特例[230](平成22年改正)」や「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例[231](平成28年改正)」といった自販機スキーム[232]に対応した改正があり、その上、「消費税法は当初から個人についての相続や法人についての合併の場合について特例規定を有していたが、平成13年には分割法人の特定要件の特例が導入され、この後、相続・合併分割時の規定整備(平成15年)、分割法人の特例要件の見直し(平成18年)、法人課税信託への対応(平成19年)」など、幾多の細かい改正があることから、佐藤教授は「課税売上高を基準とした免税制度が適切に機能するためには、多くの派生規定が必要となり、それによって消費税法が複雑化していることには、留意すべきである[233]」として、複雑化する事業者免税点制度について、警鐘を鳴らしている。

2.また、熊王教授は、このような状況を「場当たり的に改正され、実務の現場は混乱の一途を辿っている」ことから、「『特例新規設立法人の納税義務の免除の特例』が新設されたことにより、新設法人の免税期間を利用した租税回避スキームは基本的に防止されることとなったのであるから、そろそろこの辺りで交通整理も必要ではないだろうか」として、平成23年度改正の「特定期間における納税義務の免除の特例」については、「小規模事業者の実務を悪戯に混乱させるだけのものであり、消費税に対する国民の信頼を失う危険性の高い規定であるからこの機会に廃止することを提案したい[234]」と

して、法の縮小化を提言している。高名な実務家の提言として、その価値を重く受け止める必要があり、また「交通整理」の必要性は、一実務家としての筆者も強く認識するところである。

今後も、事業者免税点制度を悪用した新たな租税回避的なスキームは現れてくるであろうし、それに対しては、適切に対応していく必要はあるものの、その対応は本稿で取り上げた3回の改正を見ても分かる通り、難化・複雑化の一途を辿るであろうことは想像に難くない。佐藤教授は、「納税義務者に関連する小規模事業者免税制度に加えられた数次の改正は、いったん開けた『大きな穴(例外)』を後からふさぐ難しさを示している[235]」と評しており、消費税においては、出来る限り「例外の少ない」制度を指向すべきと指摘している。


[230] 法第9条第7項、法第37条第3項

[231] 法第12条の4、法第37条第4項

[232] 自販機スキームとは、本来、仕入税額控除の対象とならない非課税売上に対応する課税仕入れ(例えば、居住用賃貸アパートの建物)を、自販機売上げを計上し、意図的に課税売上割合を操作することにより、仕入税額控除を受け、巨額の消費税還付を受ける方法をいう。

[233] 佐藤英明 前掲(注)35 23頁

[234] 熊王征秀 前掲(注)225 139~140頁

[235] 佐藤英明 前掲(注)35 24頁

第5節 規制されるべき対象

1.良くも悪くも場当たり的な改正を繰り返す中で、法はその都度、租税回避的なスキームを部分的に封じ込めることに成功してきた。その一方で、法は複雑化の一途を辿り、実務の現場は混乱し「交通整理」が必要な状態に陥っている。では、その交通整理に先立って、事業者免税点制度の対象から除外すべき、規制されるべき対象者はどのような者か、改めて平成23年10月に発表された会計検査院の報告書で記載された4つのケースに立ち返り、確認してみることにする。

①新設法人でありながら、設立事業年度から多額の売上高[236]を計上する法人がある。

 ②個人事業者が法人成りをした場合、多額の売上高[237]を計上しているのに、設立第1期と第2期が免税事業者であるケース

 ③資本金1000万円未満で法人を設立し、第2期になってから増資[238]をするケース

 ④免税期間を経過した第3期に解散する法人[239]がある

①は、法人として事業を開始したものの、第1期からすでに小規模事業者とは言えない業績をあげた企業であり、②は既に個人事業者として事業が軌道に乗っている法人成りのケースである。③は、新設法人の納税義務の免除の特例を掻い潜ろうとする資本金の操作[240]の意図が明確に読み取ることができる[241]上、④に至っては、確実に免税メリットを受けるためだけの「食い逃げ」の状況である。

2.排除されるべき悪質な行為という観点でみると④が該当し、③も検討すべきものである。しかし、「小規模事業者の事務負担の軽減」という事業者免税点制度の本来の趣旨に立ち返った場合、①も②もその対象ではないことは言うまでもない。検査の対象となった①から④までの計1546法人のうち、納付消費税額の推計可能な計587法人について、第1期の納付税額推計が7億687万円余であり、第2期の納税額推計は10億5026万円[242]である。単純平均で1法人当たり、第1期は120万円余となり、第2期は178万円余の「益税」が発生したこととなる。検査後の改正により、封じられたスキームはあるものの、未だ免税メリットを享受する新規設立法人は、数多く存在する。本検査は税率5%時の推計であることを考慮すると、増税後の現在は、より大規模な「益税」が発生しうる状況下にあると思われる。

3.そこで、こうした状況に対する処方箋として、西野税理士は、親会社が単純な出資等の方法で資本金1000万円未満の子会社を設立した場合、「親会社の威光や親子間取引等により、設立初年度から数億円の売上を計上することも十分あり得る」などの問題点を指摘し、法人をめぐる免税点制度について分析した上で、「すべての新設法人についてこの制度は不適用とすることも考えられるのではないか[243]」と提言している。

 西野税理士の提言について検討すると、この方法は、新設法人すべてをこの制度から不適用にすることで、会計検査院指摘の4つのケースは全て封じ込めることができる非常に有力な方法であると思われる。問題点は、新設法人のすべてを対象にするため、本来の制度趣旨である「小規模事業者の事務負担に対する配慮」に該当する、真に事務負担に苦しむ創業間もない小規模事業者までも排除して、課税事業者にしてしまうことである。この点について検討すると、事業者は事業を行うに当たって、個人事業者か法人かを選択する段階で、真に保護すべき小規模事業者は、法人設立のコストや法人の維持費等を考えて、通常、個人事業者を選択するであろうし、逆に言うと、法人を選択する事業者は、既にある程度の売上や収益が見込まれる事業者であると考えるのが自然である。その意味で、新設法人は、すでに事業者免税点制度の対象ではないと考えることに無理はないと思われる。

 もう一つの問題点は、対象を新設法人に絞ることで、設立から2年間新設法人を寝かせた上で、「新設」期間から外れた上で、免税メリットを享受しようとする者が現れることが想定されるため、もう一段の踏み込みが必要となるところである。

4.この点、山田教授は、「『法人』については、現行の法人税法は確定した決算に基づいた確定申告書を、貸借対照表や損益計算書等を添付して提出することを義務付けた確定決算主義をとっている(法法74①、法規35)ことや、法人税に係る税理士の関与割合は約9割にのぼり、税に関する専門家からのアドバイスを受けられる環境にあること(中略)更には前回(平成15年)の税制調査会での指摘から長期間が経過していること等に鑑み、全ての『法人』について、消費税の納税事務負担に耐えられるだけの事務処理能力を有しているとして免税点制度を不適用としてもよいのではないだろうか[244]」として、「新設」に関わらず、全ての法人について免税点制度の不適用とする提案をしている。

 この提案であれは、潜脱の余地を皆無に近く減らすことができると思われる。つまり、「法人」を用いた、全ての事業者免税点制度を悪用したスキームを封じ込めることができる上に、今後発生するスキームをも未然に防ぐことが可能となる、ということである。また、複雑化の一途を辿った派生規定のうち、法人に関する特例の部分についての条文は、必要がなくなるため、廃止することも可能となり、「交通整理」も進むことから、簡素な仕組みが実現し、事業者・実務家の間に起きていた混乱を、劇的に収縮させることも可能となる。

この方法は、すでにOECD内でも実施している国があり、例えば、オランダでは、事業者免税点制度の対象は「自然人[245]またはパートナーシップ[246]のみに適用」とされており、スウェーデンにおいても、「自然人においてのみ適用」[247]とされている。

5.事業者免税点制度の悪用事例の多くは、「法人」が関係している。その背景には、法人が容易に設立・解散することができるようになったことが、一つの要因として考えられる。そこには、平成18年施行の会社法の改正があったことに加えて、手数料自由化[248]による価格競争(低価格化)・コンピュータ化・IT化の波が、設立登記を扱う司法書士・行政書士の分野にも押し寄せている、ということでもある。また、税理士の顧問契約を交換条件として、会社設立を実質0円で行う会計事務所も多く存在[249]することから、税理士(会計事務所)の存在が、安易な法人設立とそれに伴った事業者免税点制度の悪用を産んでいる可能性を否定できない、と筆者は推測している。  その意味で、山田教授の厳しい提案は、事業者だけではなく、税理士を始めとする会計・税務の職務に携わるすべての実務家(無論、末席を汚す筆者も含め)にとって、改めて「法人」について考え直し、襟を正す良い機会、と考えることも出来るのではないだろうか。


[236] 前掲(注)198参照

[237] 課税事業者である個人事業者206人が、平成18年中に資本金1000万円未満で法人成りをして同一の事業内容等で事業を開始した後、設立2年以内に事業者免税点制度の適用を受けていた場合の法人成り後の売上高は第1期が6700万円、第2期が7900万円とかなりの高額でありながら、免税事業者に該当している状況が明らかになった。 会計検査院 前掲(注)68 3頁

[238] 資本金1000万円未満の法人を設立し、第1期に免税事業者となり、第1期中に1000万円以上に増資して、第2期から課税事業者となった法人が10法人、第1・2期は免税事業者となり、第2期中に増資して、第3期から課税事業者となった法人が19法人確認された。 会計検査院 前掲(注)68 3~4頁

[239] 設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後に解散した法人、無申告になっている法人、他の新設同族法人へ売上げを移転していると思われる法人が24法人見受けられた。

会計検査院 前掲(注)68 4頁

[240] 例えば、人材派遣業では行政の認可を得るために、資本金2000万円が要件になることから、資本金を操作していると思われる。

[241] 資本金1000万円未満で設立し、第1期中に増資をしたのち、第1期中に再度1000万円未満となる減資を行い、第2期も免税事業者となった法人が4法人報告されている。

会計検査院 前掲(注)68 4頁

[242] 会計検査院 前掲(注)68 4頁

[243] 西野道之助 前掲(注)118 113~114頁

[244] 山田晃央 前掲(注)8 71頁

[245] 自然人とは、近代法のもとで、権利能力が認められる社会的実在としての人間のことで、法人と対比されている概念をいう。

[246] パートナーシップ(partnership)は、英米法において2名以上の者(パートナー)が金銭・役務などを出資して共同して事業を営む関係をいう。

[247] 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 天野史子 前掲(注)178 69頁

[248] 司法書士業に関して、公正な競争の確保や合理性の観点から、平成15年4月に司法書士の報酬に関する規定(平成10年7月1日施行)が司法書士会会則記載事項から削除されている。また、行政書士業は平成11年の行政書士法改正で「報酬規則」がなくなり、平成12年4月1日から自由化されている。

[249] 検索サイト・グーグルで「会社設立 0円」で検索すると、6300万件がヒットする状況である。

新規事業者は印紙税等の実費のみで会社設立を行うことができ、税理士は顧問契約による毎年得られる固定的な顧問料から、設立に伴う手数料を回収することができるという点で、双方にメリットがあることから、このビジネスモデルが浸透しつつある、と思われる。